法学部や法科大学院,資格試験受験生などは六法が必須です。
六法の種類については下記記事でも紹介しましたが,主には,学習用の小型六法,判例付き六法,大型の六法全書の3種類です。
この3種類のうち,学習で使うのは小型六法と判例付き六法です。
今回は,この2種類ではない第3の選択肢として,いわゆる「択一六法」を紹介したいと思います。
択一六法とは
択一六法とは,主に資格試験受験予備校が刊行している逐条形式のテキストです。
テキストですので,ポケット六法やデイリー六法などの学習用小型六法とは用途が異なります。ポケット六法やデイリー六法では,条文の確認が主な用途だと思いますが,択一六法は条文ごとに関連する判例や趣旨・定義・要件・効果がコンパクトにまとめられています。
とても便利だと思いませんか?
主には司法試験の短答式試験向けに刊行されていますので,いつの司法試験で出題されたのかもメモされていることが多いです((H24,H27,H29)のように出題された年度や「司,予,書」など司法試験,予備試験,司法書士試験で出題されたことが示されている)。
多くの出題メモがある箇所はそれだけ重要な知識であるといえますね。
択一六法と判例付き六法(判例六法)の違い
条文ごとに判例が載っているものとして,判例付き六法がありますよね。
有斐閣判例六法・有斐閣判例六法Professionalや模範六法(三省堂)が有名ですね。
では,択一六法と判例付き六法の違いはどこにあるのでしょうか。
択一六法はあくまでテキストであり,判例付き六法はあくまで六法である,ということに尽きると思います。
作りは似ているように感じるかもしれませんが,判例付き六法はあくまで六法ですから,条文が主体であり,その条文に判例の要旨を付け加えて六法としての利便性の向上を図ったものです。他方で択一六法はテキストの内容を条文ごとに整理し直した(構成し直した)ものであり,中身の主体は解説部分にあります。
ですので,択一六法には判例の要旨以外にも,そもそもの条文の趣旨や定義,要件・効果なども整理されています(それに対して,判例付き六法の条文以外の付加情報は判例の要旨のみであることが原則です)。
択一六法はあたかも上級者が作成したノートのような書籍です。
択一六法だけで勉強できるのか?基本書は不要??
条文の原文に加えて, 条文の趣旨や定義,要件・効果なども1冊にまとめられているなら,択一六法のみで勉強を済ませることができるのではないか?と感じた人もいるかもしれませんね。
できなくはないが,避けた方がよい,というのがこれに対する私の回答です。
というのも,択一六法にはかなりの情報量が詰め込まれていますが,それゆえ一つ一つの記述はかなり簡潔です。判例の要旨も結論のみの記載であることも多く,事実関係までは追えないこともあります。事実関係が重要でない判例であればよいのですが,そうではない判例も割と多くあるので悩みどころです。
また,解説の記述が簡潔であるがゆえに,テキストとしての論述式試験への対応力は低いです。これは当然のことであって,択一六法がそもそも短答式試験の知識確認用のために作成されたテキストだからです。
したがって,択一六法のみで勉強するのはリスクを伴います。とくに資格試験への対応は択一六法1冊では正直厳しいでしょう(学部の定期試験であれば,最低限の得点はできるかもしれませんが)。
択一六法は基本書と併用することをおすすめします。
もっとも,先ほども書いたとおり,択一六法は上級者が作成したノートのような書籍ですので,うまく使いこなせば知識確認用としては抜群の効果を発揮します。また,予習用として,さっと関係条文を眺めておくと大学の講義などがより理解しやすくなるでしょう。
(今では少なくなってきていると思いますが,予備校刊行の本を毛嫌いする大学教員もいるので,講義中に堂々と机上にだしてよいものかどうかは,慎重に判断しましょう)
択一六法の種類
択一六法は,各予備校から刊行されています。主なものを下記で紹介しますが,どれを選んでも大差はないと思います。自分の感覚に合うものを選べばよいでしょう。秋に最新版が刊行されるのが一般的です。
完全整理択一六法シリーズ
LEC東京リーガルマインドが刊行しているのは,完全整理択一六法シリーズです。
司法試験受験生界隈では,「完択」とか「干拓」とか呼ばれているもので,択一六法としては定番書だと思います。
刊行科目は,憲法,民法,刑法,商法(会社法含む),民事訴訟法,刑事訴訟法,行政法の7つです(過去に司法試験予備試験向けに一般教養をシリーズの別冊として刊行していました)。
Amazonで試し読み(立ち読み)も可能です。
2022年版は2021年8月下旬~9月中旬発売(科目によって発売日が異なります)のようです。
逐条テキストシリーズ
早稲田セミナー(早稲田経営出版)が刊行しているのは,逐条テキストシリーズです。
逐条テキストシリーズは,他の択一六法よりも本のサイズが大きく,A5サイズです(他の択一六法は四六サイズ(B6サイズ)です)。その分,余白もやや広く,情報を集約していろいろと書き込みたい人にはおすすめです。
刊行科目は,憲法,民法,刑法,行政法,商法(会社法含む),民事訴訟法,刑事訴訟法の7つです
2022年版は2021年8月下旬発売(科目によって発売日が異なります) のようです。
司法書士試験向けの択一六法
市販はしていないようですが,クレアールという資格試験予備校が司法書士試験向けの教材として,択一六法を作成しているようです。ウェブサイトで一部内容を公開していたりするようなので,確認してみてください。
択一六法を使う際の注意点
択一六法は,条文ごとに情報を整理したものですが,条文に改正があるとその整理が変わってくることがあります。
購入する際には,最新版を買うようにしましょう。
また,条文を調べるための六法ではなく,あくまでテキストですから,毎年買い替えることが必要とは言いませんが,法改正があった場合には,その条文については注意しましょう。改正内容などを他の書籍や雑誌などで確認してフォローしておくよよいですね。
改正された条文ごとの個別フォローでは追いつかないくらいの大きな改正があった場合には,買い替えることをおすすめします(これは択一六法に限った話ではなく,基本書などのテキスト全般に言えることですが)。