入試後に法学部に進学することが決まった直後や法学部に入学直後は,これからはじまる法学の勉強に対するやる気にあふれていると思います。
いきなり憲法,民法,刑法といった科目を履修することができる大学も多いかと思いますが,いきなり専門科目は不安,そもそも法学って具体的にどういう学問なのかよくわかっていない,という人も多いでしょう。
そういった学生に向けて,法学入門という講義が設けられている大学も多いと思いますが,せっかく入学した法学部,少しでもいいスタートダッシュを決めたいと思っている人もいると思います。
講義開始まで待てない!専門科目もすぐに履修したいから一日でも法学入門を学びたい!
そんな入学前の高校生や入学直後の新入生におすすめの法学入門の書籍を紹介したいと思います。
また,法学部進学を希望していたり,迷っていたりする高校生にもおすすめの法学入門です。
いずれもコンパクトですので,受験勉強の妨げになることはないと思いますので,法学部に興味がある高校生もぜひ手に取ってみてください。
入学前や入学直後に読んで,スムーズに法学になじめるようにしましょう!
追記:これまでにないタイプの法学入門が出版されました。最後にちょっとだけ紹介します。
追記2:2021年春の新刊・改訂版については下記の記事もご参照ください。
法学部での勉強の仕方やレポートの書き方・答案の書き方についてのおすすめの入門書は下記の記事にまとめました。本記事とあわせてご参照ください。
法学入門のパターン
法学入門の書籍は各社からたくさん刊行されています。
私もいくつも読みましたが,その経験から,法学入門は大きく分けて3つのパターンがあると考えています。
「法学」の考え方への入門パターン
まず一つ目は,学問としての「法学」はどのような考え方や思考方法をするのか,という点に重きをおいた書籍です。
法解釈のお作法的なところや法的三段論法とは何ぞやといったところを解説していきます。
各個別の法律や法分野を超えた法学一般に共通する考え方を解説します。
ほかに法と正義や法と道徳など,いわゆる法哲学的な議論の紹介も含まれることが多いです。
書籍によってはこの法哲学的な議論に重きを置かれたものもあり,抽象的な議論が続き,ややとっつきにくいと感じる人もいるかもしれません。
もっともこのパターンの本でも,身近な例を使うことで初学者や高校生にもわかりやすく書かれているものも多いので,身構えることはないですよ。
このパターンの本では,世の中にどんな法律があって,その法律がどんな役割を担っているのか,といったところはあまり解説されません。
そういった解説を知りたければ,詳しくはその法律の講義や教科書を読んでね,ということになります。
個別の法分野の紹介パターン
次のパターンとして,いまある法律がどんなものがあって,全体としてどういう体系になっているのか,それぞれの法分野の考え方の特徴や役割はどのようなものか,といった個別的,具体的な法律や法分野を順番に紹介していくパターンです。
日本の法律は大体2000くらいあります。政令や省令まで含めると8000くらいになるそうです。
こんなにたくさんある法律ですが,場当たり的に定められているわけではなく,一定の考え方に沿って体系化(誤解を恐れずに言えば「グループ分け」)されています。
その体系の全体像を概観し,各グループにはどんな法律があるのかを見ていき,各グループで中核となる考え方はどのようなものか,を順番に紹介していく書籍がこのパターンです。
たとえば,経済法という分野には,独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)を中心として,下請法や景品表示法なども含まれます。
なぜこれらの法律が含まれるのかといった疑問には,この分野にはどういった考え方が中核にあるのかを知れば見えてくるものがあると思います。
法学,法律の基礎知識パターン
上記2つのパターンとはやや毛色が異なるのですが,こちらも法学入門として紹介します。
上記2つのパターンの書籍と合わせて読んだり,手元に置いておくとよいタイプの書籍です。
日本は制定法の国ですから,法律は条文という文章で書きあらわされます。
この条文の書き方にも一定のルールがあります。
民法と刑法と条文の形式的な書き方の側面で違いがあると混乱しますよね。
条文では「又は」と「若しくは」,「及び」と「並びに」はそれぞれ区別して使われています。
そういった条文構造ルールや裁判例(判例)の基本的な知識の紹介にフォーカスを当てた入門書がこのパターンです。
裁判例(判例)にも,事件番号の付け方などの一定の形式的ルールや「判例」とはどの部分なのか,など一般的な事項として知っておいた方がいいことがあります。
おすすめの法学入門 入学前の高校生や入学直後の独学におすすめ!
「法学」の考え方への入門パターンでおすすめの法学入門2冊
この本は著者の早川先生の10年にもわたる大学の法学入門の講義をベースにしているようです(著者は立教大学の所属ですから,立教大学の講義だと思います)
10年間の「工夫の全てが盛り込まれて」いるそうです(本書のはしがきより)。
読者に対する「問いかけ」がたくさん散りばめられており,頭を使いながら読み進めることができます。
問いかけもとてもユニークなものが多く,また,高校生や新入生でもまったく違和感なく入っていける設例ばかりです。
法学とは一見無関係とも感じられる設例を用いて,法学とは何か,法学の役割とは,を考えさせる作りとなっており,哲学的な思考に苦手意識を持つ人もどんどん読み進めることができると思います。
おすすめですよ!
「第5章 法学の分野」などで個別の法分野の紹介もありますので,もう一方のパターンの入門書の内容も含まれています。
(とはいえ,重きを置かれているのは「考え方」の方だと思いますので,こちらに分類しました)
余談ですが,この有斐閣ストゥディアシリーズ,シリーズとしてもおすすめです。
法学分野だけでなく,政治学,経済学,社会学など,人文系・社会科学系分野の書籍もたくさん刊行されています。
他分野の入門や教養のために読むには最適のシリーズだと思います。
小説風の語り口で法学を解説してくれる1冊です。
主な登場人物は,法学部の准教授,高校生,文学部生で,法学に全く触れたことのない人を対象に,法学の考え方を分かりやすく語りかけてくれます。
新書で,通学時間などで読み通せるサイズ感なのもおすすめです。
書きぶりも(いい意味で)ライトノベルを思わせるような軽いタッチで書かれています。
「法学部=六法全書の暗記」と思っているような高校生には是非読んでもらいたいですね。
読了後は法学に対する印象が大きく変わり,興味がなかった法学部が進学先の候補に入ってくることもあると思います。
憲法的なトピックがやや多いですが,あくまで法学入門で法学の考え方を学ぶものなので,気にする必要はありません。
著者の木村草太先生は,報道番組など,マスコミ,テレビでも見かけることの多い憲法学者ですね。
個別の法分野の紹介パターンでおすすめの法学入門
後記の『現代法学入門』が長らく定番の入門書だったのですが,さすがに初版刊行から半世紀以上経過し,内容や記述がやや古い印象があったり,近年の法改正ラッシュに追いついていない状況でした。
そのような状況を打破するかのように,2021年に同じ出版社から新しい法学入門(下記)が刊行されました。『現代法学入門』の香り(?)も残しつつ,現代的で内容もよい入門書となっています。
書斎の窓というPR誌でも現代法学入門の「実質的な後継書となることを目指して書かれたのが,本書」として紹介されています(その記事は有斐閣の書籍紹介ページのリンクから読むことができます)。
構成も工夫がみられ,手続法から始まるような構成になっています。なぜそのようになっているのかは是非実際に手に取って読んでみて確かめてください。
ちょっと古いのですが,かつてのド定番でした。
なんと初版の刊行が1964年!
じつに半世紀以上前から読み続けられています。
もはや古典の域に達しようとしていますが,まだまだ現役の入門書です(さすがにそろそろちょっと法改正に追いつけていない印象です)。
伊藤正己先生は東京大学の英米法・憲法の先生で,最高裁判事をつとめた方です。
加藤一郎先生は東京大学の民法の先生で,学生紛争の時に東大総長をつとめた方です。
いずれも一流の先生で,執筆者として加わっておられるそのほかの先生方も素晴らしい先生方です。
そのような一流の編者・執筆陣に対する信頼があるからこそ,これだけのロングセラーになっているのでしょうね。
とはいえ,記述や書きぶりもやや古い印象は否めませんので,これにかわる入門書の登場が待たれていたのですが,実質的な後継版として刊行されたのが上記の宍戸常寿・石川博康/編著『法学入門』(有斐閣,2021年)です。
法学,法律の基礎知識パターンでおすすめの法学入門2冊
法律の条文構造や基本的な用語の使われ方について,わかりやすく,かつ,コンパクトに書かれています。
出版された当時は,法学部生だけでなく,法務部などの人も買ったという話です。
(契約書の文言や構造なども基本的には条文と同じものとされているので,知識確認のために買った人が多かったのではないでしょうか)
1冊手元に置いておくと卒業まで,いや,就職先によっては卒業後も役に立つ本だと思います。
しかも,定価990円と(法律関係書籍としては)かなりの低価格です。
下記の記事の最後でも少し紹介しましたので,興味がある方はこちらもお読みください。
姉妹本(?)として,判例にフォーカスした青木人志『判例の読み方――シッシー&ワッシーと学ぶ』(有斐閣,2017)という本もあります(リンク先:Amazon)。
書きぶりはかなり異なりますが,有斐閣の社章をモチーフにしたキャラクターが登場して会話調の軽いタッチで書かれています。また,さらに青木人志『法律の学び方――シッシー&ワッシーと開く法学の扉』(有斐閣,2020)という本も刊行されました。まとめて読むといいかもしれないです。薄い本なので通学電車で読めちゃいますよ。
こちらも低価格なので,ありがたいですね。
東京大学のロースクールの未修者向けに書かれた法学入門です。
未修者とは,他学部出身でロースクールに入学し,ロースクール入学前は法学は未修である人のことです。
(ただ,法学部出身者も未修者コースで入学は可能ですので,実際の未修者コースは,本当の未修者と法学部出身者〔既修者〕が混在しています)
著者の道垣内弘人先生は元・東京大学の民法の先生です。
お名前は「どうがうち ひろと」と読みます。
ほかの学問を修めた人からすると,法学の考え方に違和感を持つことがあるようですが,そこの部分を丁寧に解きほぐしてくれる1冊です。
「ロースクールの未修者向け」に書かれたものではありますが,法学部の新入生や高校生でも十分に読み進めることができます。
この本はとても軽妙な文章で書かれていますので,気負わずに手に取ってみてください。
条文や判例の基礎知識の修得だけでなく,法解釈の考え方なども学べます。
また,最終章には「第7章 必要なツールと参考になる本」として六法,辞典や参考書籍についての紹介もありますよ。
このプレップシリーズはほかの本も入門書としてクオリティが高いものが多く,下記の記事で紹介した米倉明『プレップ民法〔第5版〕』もその一つです(リンク先:Amazon)。
※米倉先生は道垣内先生のお師匠(指導教官)です。
道垣内弘人先生のお兄さんに道垣内正人先生という国際私法の先生がいます。道垣内正人先生も元・東京大学の先生でした。兄弟で東京大学の法学部の先生なんてすごいですね。
また,道垣内正人先生も法学入門を書いています。『自分で考えるちょっと違った法学入門〔第4版〕』(有斐閣,2019)です(リンク先:Amazon)。こちらもとても良い本で,この記事に掲げるか最後まで迷いました。タイプとしては「法学」の考え方への入門パターンです。著者の名字だけ覚えて本屋に行くと間違えて買ってしまう可能性もあるので,気を付けてくださいね。(どっちもいい本ですけどね)
ちなみに最初に掲げたストゥディア法学入門の著者の早川先生の学問上の恩師が道垣内正人先生です(ストゥディア法学入門のはしがきより)。
おすすめの法学入門のまとめ
当ブログとして,法学入門のおすすめは下記5冊です。
- 早川吉尚『法学入門』(有斐閣ストゥディアシリーズ)(有斐閣,2016)
- 木村草太(イラスト:石黒正数)『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)(講談社,2012)
- 宍戸常寿・石川博康(編著)『法学入門』(有斐閣,2021)
- 法制執務用語研究会『条文の読み方』(有斐閣,2012)
- 道垣内弘人『プレップ法学を学ぶ前に〔第2版〕』(プレップシリーズ)(弘文堂,2017)
もちろんこの5冊以外にも法学入門はたくさん刊行されています。
入門の段階でたくさんの本があると,初っ端から迷ってしまいそうですが,まずは1冊を読み通すことが重要だと思います。
難しそうな本から入って途中で挫折してしまってもいけませんので,自分が読み通せそうな本を選んでみてください。
(もちろん難しそうな本にチャレンジしてみたい人はどんどんチャレンジしてみてください)
ここに挙げた5冊は,初学者でも読み通すことができる本ばかりです。
1冊読み通すことができれば,それが自信となって次の本に意欲的に取り掛かることができると思いますよ!
追記:森田果『法学を学ぶのはなぜ?』(有斐閣,2020年)
2020年11月に新しい法学入門が刊行されました。
法律の機能面に重点を置いた構成と言えるでしょうか。「インセンティブ」を切り口にしている点は法の経済分析に関する業績が多い森田先生らしいですね。
「あとがき」によると,本書のきっかけは上記で紹介した早川吉尚『法学入門』(有斐閣ストゥディア)をめぐる座談会のようです。また,ターゲットは高校生のようです。
法学部に入った後でも,本書から学ぶところはとても多いと思いますので,気になった方は是非手に取ってみてください。