2021年(令和3年)5月21日,第204回通常国会にて,少年法改正が成立しました。
今回の改正は,主に民法の成年年齢の引き下げに伴う少年法の規律の見直しです。
施行も民法の成年年齢引き下げにあわせて2022年4月1日の予定です。
成年年齢(成人年齢)に関する改正の概要
ご存知の方も多いと思いますが,2022年(令和4年)4月1日から成年年齢(成人年齢)が20歳から18歳へと引き下げられます。これは今回の少年法改正よりも一足早く,2018年(平成30年)6月20日に公布された民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)で改正されたものです。
選挙権については,さらに前の2015年(平成27年)6月19日公布の公職選挙法等の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)による改正で,18歳から選挙権が付与されることになり,2016年6月19日から施行されています。
これらの法改正までは,原則として年齢の線引きは20歳で区切ることが多かったのですが,選挙権の見直しを契機として,(民法上の,私法上の)成年年齢(成人年齢)が見直されました。
2018年の民法改正によって,民法以外の年齢要件も改正されました。多くは18歳に引き下げられましたが,20歳の年齢要件を維持したものもあります(繰り返しになりますが,施行は2022年4月1日ですよ)。
たとえば,飲酒,喫煙はそれぞれ「未成年者飲酒禁止法」「未成年者喫煙禁止法」という法律で従来の未成年者(20歳未満)の飲酒・喫煙を禁止していましたが,民法の成年年齢が18歳に改正された後も20歳未満の飲酒・喫煙の禁止は維持されています。
ですので,上記2つの法律名も「未成年者……」ではなく,「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」と題名も改正されています(題名改正については下記記事にまとめました)。
18歳以上は成年(成人)で,原則として一人で契約などができますが(たとえば,下宿のためにマンションの賃貸借契約が単独でできるなど),18歳以上20歳未満は飲酒・喫煙は禁止されたままです。
いわゆる,公法・私法は年齢要件の改正が一段落していましたが,まだ刑事法関係の年齢要件が残っていました。
それが今回の少年法改正につながるのですね。
令和3年少年法改正(18歳以上20歳未満の取り扱い)
少年による凶悪犯罪は,事件の数自体は多くはないと思うのですが,いったん発生すると,センセーショナルに大きく報道されることもあり,国民的な関心も高いのが少年法です。少年には一定の保護が与えられますので,その保護と国民の処罰感情がぶつかることが多いためです。
選挙権や民法の成年年齢が18歳に引き下げられたこともあり,少年法の適用年齢についても見直しがされ,その結果,今回の改正法が成立しました。
令和3年少年法改正の概要(「特定少年」の創設)
今回の令和3年少年法改正によって,少年法の適用年齢が18歳に引き下げられたわけではなく,18歳以上20歳未満も適用対象のままとし,その年齢区分(18歳以上20歳未満)を「特定少年」として,18歳未満とは異なる取り扱いをすることとなりました。
「特定少年」には,少年法の一定の保護が適用されますが,18歳未満とは異なる取り扱いになるということです。
少年法の「少年」
改正前の少年法における「少年」の定めは下記の通りでした。
少年法(昭和23年法律第168号) ※令和3年改正前
(少年、成人、保護者)
第2条 この法律で「少年」とは、20歳に満たない者をいい、「成人」とは、満20歳以上の者をいう。
(2項省略)
令和3年改正後の少年法では下記のように改正されました。
少年法(昭和23年法律第168号) ※令和3年改正後
(定義)
第2条 この法律において「少年」とは、20歳に満たない者をいう。
(2項省略)
つまり,少年法はこれまで通り20歳未満の者に適用されるということを明確にしています。
「特定少年」はどう扱われるの?
少年事件は,基本的には家庭裁判所で扱われます。
もっとも,今回の改正前でも「16歳以上」の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」(殺人や傷害致死)の場合は,原則として検察官に送致しなければならないとされていました(少年法20条)。
その後,検察官が起訴すれば,刑事事件として扱われることになります。
今回の改正で,「特定少年」(18歳以上20未満)は上記の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」に加え,「死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」の場合には,原則として検察官に送致しなければならないこととなりました(〔改正後の〕少年法62条)。
「死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」には,強盗や放火などが含まれることになり,対象となる犯罪行為の範囲が拡大されました。
「特定少年」と匿名報道
少年による凶悪犯罪が発生するたびに大きな議論となる点が,少年法による「匿名報道」の要請です。
少年法61条は,少年事件の報道について下記のように定めています。
少年法(昭和23年法律第168号) ※令和3年改正で条文には改正なし(見出しの削除あり)
第61条 家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。
つまり,少年事件については,その少年がどこの誰であるかがわかるかたちで報道してはいけない,ということです。
今回の改正で,少年法61条の特例が定められました。それが下記です。
少年法(昭和23年法律第168号) ※令和3年改正後
第5章 特定少年の特例
(中略)
第3節 記事等の掲載の禁止の特例
第68条 第61条の規定は、特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における同条の記事又は写真については、適用しない。ただし、当該罪に係る事件について刑事訴訟法第461条の請求がされた場合(同法第463条第1項若しくは第2項又は第468条第2項の規定により通常の規定に従い審判をすることとなつた場合を除く。)は、この限りでない。
「特定少年」(18歳以上20歳未満)が犯した事件が起訴された場合には少年法61条が適用されず,報道機関は匿名で報道しなくてもよいことになりました。ちなみに上記の少年法68条のただし書にある刑事訴訟法461条とは略式手続(略式命令)の条文です。
つまり,特定少年の事件が起訴された場合には実名報道が可能になったというわけです。
勘違いする人がいるのですが,実名報道が可能になっただけで,実名報道しなければならないわけではありません。特定少年の事件が起訴された場合にも匿名性が求められる場合もあり得ます。これからも報道機関にはモラルをもって報道に当たっていただきたいですね。
また,実名報道が可能になるタイミングも,起訴後に限られていますので,その点も注意が必要ですね。
「特定少年」とぐ犯(虞犯)
少年法には「ぐ犯(虞犯)」という概念があります。
「ぐ犯」とは,「その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」です。この制度は,まだ犯罪行為をしていないが,その可能性が高い類型にあたる少年については,早期に発見し,適切な保護・育成をして,健全な育成を図ることを目的としています(ぐ犯少年は家庭裁判所に送致される)。
ぐ犯については,少年法3条3号で定められています。
少年法(昭和23年法律第168号) ※令和3年改正で改正なし
第3条 次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
(1号・2号省略)
三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して,将来,罪を犯し,又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し,又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
(2項省略)
今回の令和3年少年法改正で,「特定少年」(18歳以上20歳未満)については,「ぐ犯」の対象から除外されることになりました。それを定めたのが下記の令和3年改正後の少年法65条です。
少年法(昭和23年法律第168号) ※令和3年改正後
(この法律の適用関係)
第65条 第3条第1項(第3号に係る部分に限る。)の規定は,特定少年については,適用しない。
たしかに,少年法3条3号を18歳以上に適用するとするとかなり違和感がありますよね。高校も卒業した18歳が家に寄り付かないからって家庭裁判所に送致されるとしたら,「え?」ってなりますよね。
今回の改正は特定少年という新たな区分を作ったことで,年齢区分でより細やかな対応をすることになったと評価できるともいえるかもしれません。
少年法の議論はこれで決着したの?
今回の少年法改正によって,特定少年(18歳以上20歳未満)については,検察官送致となる対象事件が増え,刑事裁判にかけられる場合が多くなりました。また,検察官が起訴した後は実名報道も可能となりました。
これで,たびたび起こる少年法の議論に決着がついたのでしょうか。
おそらく,今後も少年による凶悪犯罪が起こるたびに同じ議論が繰り返されることになるでしょう。
もちろん法を犯してしまった少年にきちんと罪を償わせることは必要ですが,教育・更生も重要です。教育・更生の機会がなかったがゆえに,再犯率が上がってしまうような結果になっていないか,改正後の統計・追跡調査が重要になるでしょう。
社会全体として犯罪件数を減らし,少年を健全に育成することはとても重要です。また,被害者やそのご家族の処罰感情ももちろん無視できません。その両方の観点を持ちながら,少年法を考えていきたいですね。
厳罰化や実名報道が,少年事件の件数に影響があるのか否かはきちんと見ていかなければならないと思います。
少年法のおすすめテキスト
川出敏裕『少年法』(2015年,有斐閣)
本書初版は今回の改正(令和3年少年法改正)にはまだ対応していません。
川出敏裕先生は,東京大学法学部の教授です。刑事訴訟法や少年法の研究者です。今回の改正にあたっては,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会に委員として参加していました。改正に対応した改訂版の刊行が待ち望まれますね。
本書初版は改正にはまだ対応していませんが,少年法の制度を体系的に理解するならこの1冊をおすすめします。
宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)』(2019年,新潮社)
本書は話題になり,よく売れているようなので,ご存知の方も多いと思います。
少年法のテキストではありませんが,少年法の理念である教育・健全育成や更生の必要性について考えるきっかけになる1冊だと思います。新書なのでサクッと読めると思いますので,是非一度読んでみてください。
下記の通り,マンガ版もあるようです。