1つの行為で複数の犯罪が成立したときどうなるの?最高裁令和2年〔2020年〕10月1日判決

法学部
※アフィリエイト広告を利用しています
スポンサーリンク

昨日(令和2年〔2020年〕10月1日)に,新しい最高裁判決がでました。

トリビア的な判例だったので紹介したいと思います。

(前日〔令和2年9月30日〕にもう1件刑法関連の判例が出ています。こちらは共犯関係の重要判例だと思われますので,司法試験受験生などはチェックしてみてください

最高裁令和2年10月1日判決の論点

罪名① 懲役A年以下または罰金P円以下
罪名② 懲役B年以下または罰金Q円以下

①と②の法定刑の軽重
A>BP<Q

参考条文
刑法54条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ,又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは,その最も重い刑により処断する。

ある犯罪行為が罪名①②の両方に触れる場合,罰金刑の上限はPかQか

最高裁令和2年10月1日判決の事案の概要

事案は以下の通りです。

被告人はさいたま市内のパチンコ店のトイレで女性を盗撮した。

事案としてはこれだけです。
盗撮は絶対にダメですよ!

この盗撮行為が以下の2つの罪名に触れます。

建造物侵入罪(刑法130条)
「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」
埼玉県迷惑行為防止条例違反(盗撮)(同条例2条4項・12条2項1号)
「懲役6か月以下または罰金50万円以下」

懲役だけみたら建造物侵入罪が,罰金だけみたら埼玉県迷惑行為防止条例の方が重いですよね。

刑法54条によって「その最も重い刑」によって処断されることになるのですが,「その最も重い刑」ってどういうこと?罰金は10万円以下と50万円以下のどっちなの?というのが今回の判例です。

最高裁令和2年10月1日判決の内容

最高裁令和2年10月1日判決から引用
「昭和23年判例は,併科刑又は選択刑の定めがある場合の法定刑を対照して,その軽重を定めるについては,刑法10条のほか,複数の主刑中の重い刑のみについて対照をなすべき旨を定めた刑法施行法3条3項をも適用しなければならないとするもので,本件のような科刑上一罪の事案において重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがある場合の罰金刑の多額についてまで判示するものではなく,軽い罪のそれによることを否定する趣旨とも解されない。この点については,最高裁判所の判例がなく,金沢支部判決は刑訴法405条3号にいう判例に当たり,原判決は,これと相反する判断をしたものである。
 そして,本件のように,数罪が科刑上一罪の関係にある場合において,各罪の主刑のうち重い刑種の刑のみを取り出して軽重を比較対照した際の重い罪及び軽い罪のいずれにも選択刑として罰金刑の定めがあり,軽い罪の罰金刑の多額の方が重い罪の罰金刑の多額よりも多いときは,刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み,罰金刑の多額は軽い罪のそれによるべきものと解するのが相当である。」

昭和23年判例=最高裁昭和23年4月8日判決・刑集2巻4号307頁
金沢支部判決=名古屋高等裁判所金沢支部26年3月18日判決・高等裁判所刑事裁判速報集平成26年140頁

これを読み解くには昭和23年判例にさかのぼる必要があります。
ざっくり言うと,昭和23年判例は,「その最も重い刑」は2つの罪に定められている最も重い刑の種類を比較して決めるというものです。
ですので,本件に関していうと,いずれの罪にも懲役と罰金がありますが,懲役と罰金では懲役の方が重いので,懲役同士を比較します。
すると,建造物侵入罪が重い方になります

ただし,別の判例で若干の修正(?),限定(?)がかけられています。
最高裁昭和28年4月14日判決では「数個の罪名中もつとも重い刑を定めている法条によつて処断するという趣旨と共に,他の法条の最下限の刑よりも軽く処断することはできない」としました。
つまり,法条(罪名)は昭和23年判例の基準で決定するが,法定刑の範囲はその法条の規定通りではないこともあるということです。

次に,本件判決文中に引用されている金沢支部判決ですが,この事案は本件事案とほとんど同じです。
つまり,住居侵入罪(3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)と暴行罪(2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)の事例でしたが,住居侵入罪で処断されることにはなるが,「罰金刑の多額は暴行罪のそれによる」としたのです。

本件(令和2年10月1日の最高裁判決)はこの結論を追認した形になっています

つまり,本件では,建造物侵入罪(刑法130条)で処断されることになるが,罰金刑の多額(上限)は10万円以下から50万円以下に引き上げられることになります。

その根拠について,最高裁は「刑法54条1項の規定の趣旨等に鑑み」としています。
根拠付けがやや苦しい感じがしないでもないですが(昭和23年判例が足を引っ張っている?),結論的には妥当だと思います。

類似の判例は,先ほどの最高裁昭和28年4月14日判決(刑集7巻4号850頁)や最高裁昭和32年2月14日判決(刑集11巻2号715頁)があります。
興味のある方は,本件との違いがどこにあるのかに着目しながら判決を読んでみましょう。

最高裁令和2年10月1日判決の結論

法条としては建造物侵入罪(刑法130条)で処断されるが,罰金の法定刑については多額(上限)は10万円以下ではなく50万円以下(埼玉県迷惑行為防止条例)となる。