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国民審査・在外投票不可は違憲――最高裁大法廷判決

法学部

 2022年(令和4年)5月25日,最高裁大法廷は,海外在住の日本人が国民審査に投票できないのは,立法の不作為があるとして,違憲判決を下しました。

今回はその判決をちょっと読んでみたいと思います。

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判決年月日等

最高裁判所大法廷令和4年(2022年)5月25日判決(令和2(行ツ)255)

そのうち民集に掲載されると思いますが,裁判所ウェブサイトでも判決文を確認できます。

国民審査

そもそも本件で問題になった国民審査とは?

憲法に定めがある制度で,最高裁判所の裁判官が最高裁判事としてふさわしいか否かを国民が審査する制度です。過半数の×が付くとその裁判官は罷免されます。

裁判官は「独立」していますが,なんのコントロールも受けないというわけではなく,主権者たる国民によるコントロールは効いており,それが具体化された制度が国民審査です。

憲法はその第6章に「司法」の規定を設けています(下記に引用します)。
76条に「独立」が,79条に国民審査が定められています。

日本国憲法

  第6章 司法
第76条 すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
 特別裁判所は,これを設置することができない。行政機関は,終審として裁判を行ふことができない。
 すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。
第77条 最高裁判所は,訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について,規則を定める権限を有する。
 検察官は,最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
 最高裁判所は,下級裁判所に関する規則を定める権限を,下級裁判所に委任することができる。
第78条 裁判官は,裁判により,心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては,公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は,行政機関がこれを行ふことはできない。
第79条 最高裁判所は,その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し,その長たる裁判官以外の裁判官は,内閣でこれを任命する。
 最高裁判所の裁判官の任命は,その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し,その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し,その後も同様とする。
 前項の場合において,投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは,その裁判官は,罷免される。
 審査に関する事項は,法律でこれを定める。
 最高裁判所の裁判官は,法律の定める年齢に達した時に退官する。
 最高裁判所の裁判官は,すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は,在任中,これを減額することができない。
第80条 下級裁判所の裁判官は,最高裁判所の指名した者の名簿によつて,内閣でこれを任命する。その裁判官は,任期を10年とし,再任されることができる。但し,法律の定める年齢に達した時には退官する。
 下級裁判所の裁判官は,すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は,在任中,これを減額することができない。
第81条 最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
第82条 裁判の対審及び判決は,公開法廷でこれを行ふ。
 裁判所が,裁判官の全員一致で,公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には,対審は,公開しないでこれを行ふことができる。但し,政治犯罪,出版に関する犯罪又はこの憲法第3章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は,常にこれを公開しなければならない。

具体的には,「最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年法律第136号)」という法律で定められています。

近年は国民審査を実効性のあるものにしようとマスコミなどが特集ページを組んだりしています。それに伴い,SNSへの国民審査に関する投稿も増えている印象です。当然ですが,虚偽の事実などを拡散すると罰則があるので,SNSなどに投稿する際は注意してくださいね。

最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年法律第136号)

 (虚偽の事実を公にする罪)
第48条
 演説又は新聞紙,雑誌,ビラ,ポスターその他いかなる方法によつても,次の各号に掲げる行為をした者は,これを2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。新聞紙及び雑誌にあつては,なお,その編集人及び実際編集を担当した者を罰する。
 一 審査による罷免を免れ又は免れさせる目的で審査に付される裁判官の経歴に関し虚偽の事項を公にしたとき。
 二 審査により罷免をさせる目的で審査に付される裁判官に関し虚偽の事項を公にしたとき。
※2022年(令和4年)刑法改正施行後は「禁錮」は「拘禁刑」になります。

憲法79条2項にある通り,国民審査は最高裁判事に任命後に初めて行われる衆議院議員総選挙の際に行われ,2回目は10年後となります。

最高裁判事の定年は70歳なので,衆議院議員の任期が4年であることから,66歳以上で任命された場合は一度も国民審査を受けることがないこともあります。実際にそういう裁判官も何人かいました。

また,近年は60歳以上で任命されることがほとんどなので,2回目の国民審査を受けることも少なくなってきています。

事案の概要

国会において在外国民に国民審査の審査権の行使を認める制度(在外審査制度)を創設する立法措置がとられなかったこと(立法不作為)により、2017年(平成29年)の総選挙の際に行われた国民審査において審査権を行使することができず精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めた。

国家賠償法(昭和22年法律第125号)

第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において,公務員に故意又は重大な過失があつたときは,国又は公共団体は,その公務員に対して求償権を有する。

判決内容

「 」内は直接引用で,それ以外の文章や〔 〕やマーカーは筆者補足です。
自分のメモ代わりに抜粋なので,抜粋が不十分,不適切な箇所があるかもしれませんので,詳しくは判決原文を確認してください(裁判所のウェブサイトで閲覧できます)。

「審査権が国民主権の原理に基づき憲法に明記された主権者の権能の一内容である点において選挙権と同様の性質を有することに加え,憲法が衆議院議員総選挙の際に国民審査を行うこととしていることにも照らせば,憲法は,選挙権と同様に,国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障しているものと解するのが相当である」。

「憲法の以上の趣旨に鑑みれば,国民の審査権又はその行使を制限することは原則として許されず,審査権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべき」。

「そのような制限をすることなしには国民審査の公正を確保しつつ審査権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえ」ない。

総選挙の投票用紙(空欄で投票時に名前を記入する方式の用紙)とは異なり,国民審査の投票用紙には対象裁判官の氏名の記載等が必要で一定の準備日数が必要になるなどの技術的な困難は認められる。

しかし,国政選挙については,在外投票制度が創設され,すでに複数回の実績もあり,上記の技術面以外では在外審査制度を創設することに「特段の制度的な制約があるとはいい難い」。

さらに,国民審査においても点字による投票の際は(記号式投票ではなく)自署式投票によるとしており(最高裁判所裁判官国民審査法16条1項〔下記に条文を掲載しておきます〕)「異なる投票用紙の調製や投票の方式等を採用する余地がないとは断じ難いところであり,……〔在外審査制度を創設することは〕事実上不可能ないし著しく困難であるとは解されない」。

「立法措置が何らとられていないことについて,やむを得ない事由があるとは到底いうことができない。したがって,国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは,憲法15条1項,79条2項,3項に違反するものというべきである」。

最高裁判所大法廷令和4年(2022年)5月25日判決(令和2(行ツ)255)より抜粋

裁判官全員一致の判決です。文句なしの違憲ということですかね。

国会は迅速な立法措置が迫られます。

なお,本判決には宇賀克也判事の補足意見が付いています。この補足意見も興味深いことが書かれていますので,司法試験受験生,法科大学院生,資格試験受験生などは一読してみることをおすすめします。

最後に上記の判決文でも言及されている最高判所裁判官国民審査法16条の点字投票の条文を掲げておきます。

最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年法律第136号)

 (点字による投票)
第16条
 点字による審査の投票を行う場合においては,審査人は,投票所において,投票用紙に,罷免を可とする裁判官があるときはその裁判官の氏名を自ら記載し,罷免を可とする裁判官がないときは何等の記載をしないで,これを投票箱に入れなければならない。
 前項の場合における投票用紙の様式その他必要な事項は,政令でこれを定める。