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裁判員も18歳から?

法学部

今年(2021年)5月に成立した「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)によって,裁判員裁判の裁判員や検察審査会の検察審査員に選ばれる年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられることになっていますが,そのことについて,話題になっています。

なぜ,5月の通常国会で成立した法改正が,いまごろ(10月)にもなって話題になっているのかというと,一般社団法人「裁判員ネット」が,この年齢引き下げが「寝耳に水である」として,記者会見を開き疑問を提起したことに端を発しています。マスコミ各社も取り上げていました。

「裁判員ネット」の代表によると,専門家も把握しておらず,議論された形跡もない,ということで問題適したようです。

選挙権の年齢引き下げ(20歳以上→18歳以上)の公職選挙法改正の際に,(当時の)少年法で「少年」として扱われている18歳,19歳が裁判員として刑事裁判に参加することは妥当か,という疑問が提示され,裁判員や検察審査会の検察審査員の対象年齢は20歳以下で維持された経緯があります

そのような経緯にもかかわらず,さほど議論も交わされた形跡もなく改正されたのは問題である,として記者会見を開いたようです。

でも,国会で法案を審議しているんですよね?

本当に専門家も「寝耳に水」なんてことがあるのでしょうか?

実は,今回の改正が,少年法の改正法案だけを読んでも裁判員や検察審査会(検察審査員)の年齢引き下げの内容を含んでいることがわかりにくい面があったため,このようなことが生じてしまっているようです。もっとも,「裁判員ネット」の問題提起は,議論が十分ではない,という点に主眼があるのではないかと思われますが,今回の改正の分かりにくさを少し見ていきたいと思います。

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改正の経緯――裁判員の年齢引き下げ

平成27年(2015年)の裁判員の年齢引き下げの見送り

平成27年(2015年)の6月に成立した「公職選挙法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第43号)によって,選挙権の年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられました

これはご存知の方も多いと思います。

その際に,様々な年齢要件についても検討が必要となることが認識され,その後,民法の成年年齢(成人年齢)も平成30年(2018年)6月に「民法の一部を改正する法律」(平成30年法律第59号)によって18歳に引き下げられました。

平成27年(2015年)の時点で,裁判員についても年齢引き下げが検討されましたが,上記の通り,引き下げは見送られました。見送られたものの,裁判員法(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律)に20歳以上という規定をもけるのではなく,上記の 「公職選挙法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第43号)附則によって,20歳以上という従来の状態を維持したという形式になっていました。

その附則を見てみましょう。

公職選挙法等の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)

附則
 (裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の適用の特例)
第10条
 年齢満18年以上満20年未満の者については、当分の間、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)第15条第1項各号に掲げる者とみなして、同法の規定を適用する。
2 地方裁判所は、当分の間、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第23条第1項(同法第24条第2項の規定により読み替えて準用する場合を含む。)の規定により裁判員候補者名簿を調製したときは、直ちに、同法第20条第1項の通知をした年の次年の1月1日の時点における年齢満20年未満の者を、裁判員候補者名簿から消除しなければならない。

18歳~20歳は「当分の間、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)第15条第1項各号に掲げる者とみなして」とありますね。

では次はその裁判員法15条1項を見てみましょう。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)

 (就職禁止事由)
第15条
 次の各号のいずれかに該当する者は、裁判員の職務に就くことができない。
  ~ 十八 (略)

裁判員法15条1項には1号~18号に,裁判員になれない属性がズラズラと掲げられています(例えば,国会議員や国務大臣,裁判官,弁護士,検察官など)。この18の中に18歳~20歳という属性は入っていないのですが,上記の附則で裁判員法15条1項各号に掲げる者とみなされ,裁判員にはなることができなくなっていました。

そもそも裁判員法は,裁判員の一般的な資格を下記のように定めており,公職選挙法の規定が直接的に影響する関係にあるため,平成27年(2015年)には,このような複雑な方法での年齢引き下げが見送られました(裁判員候補者の名簿は選挙人名簿を土台にしているためです)。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)

 (裁判員の選任資格)
第13条 裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から、この節の定めるところにより、選任するものとする。

2021年の裁判員の年齢引き下げ

上記の平成27年(2015年)の裁判員の年齢引き下げの見送りの方法(法改正)が技術的であったため,今年(2021年)の「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)による裁判員の年齢引き下げがより複雑になりました

「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号)では下記のような改正条文によって,裁判員の年齢引き下げを実現しています。

少年法等の一部を改正する法律(令和3年法律第47号)

附則
 (公職選挙法等の一部を改正する法律の一部改正)
第17条
 公職選挙法等の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)の一部を次のように改正する。
  附則第5条から第10条までを削る。
  附則第11条中「少年法」の下に「(昭和23年法律第168号)」を加え、同条を附則第5条とする。

公職選挙法等の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)」の「附則第5条から第10条までを削る」とありますね。

これにより, 上記で引用した公職選挙法等の一部を改正する法律(平成27年法律第43号)附則10条にあった「年齢満18年以上満20年未満の者については、当分の間、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律……第15条第1項各号に掲げる者とみなして」が削除され,裁判員法の原則通り「裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から、……選任する」(裁判員法13条)となり,選挙権の年齢と裁判員の年齢が一致することになりました。

少年法等の一部を改正する法律によって裁判員以外に年齢が引き下げられたのは?

裁判員の年齢引き下げとともに,同じような改正の手順で検察審査会の検察審査員の年齢も20歳以上から18歳以上に引き下げられました。裁判員と同じく刑事手続に関与する者についての年齢要件ですね。

まとめ

改正内容が複雑になった経緯を簡単にまとめると,

裁判員法では,裁判員の年齢要件は選挙権の年齢と同一であるという前提になっていた。

公職選挙法改正で選挙権の年齢が下がったが,少年法との関係もあり,上記前提に従って裁判員の年齢も引き下げるのは時期尚早となり,公職選挙法の改正法の附則で上記前提を排除した

少年法も改正となり,18歳以上20歳未満は特定少年となり,原則逆送致対象,厳罰化の方向,ということもあってか,裁判員の年齢も18歳以下にすることにし,上記の公職選挙法の改正法の附則を削除した

結果として,裁判員の年齢と選挙権の年齢は同一であるという前提に戻り,裁判員も18歳以上となった

この一連の改正の中で,裁判員についての年齢要件についての裁判員法そのものの改正はなかったことになりますから,わかりにくく,また気が付きにくいという面はありますね。

また,少年法は18歳以上20歳未満は成人と同一には扱ってはいないのですが,それにもかかわらず,裁判員法は成人と同一に扱っています。別物と言えば別物ですが,平成27年公職選挙法改正時の裁判員の年齢引き下げ見送りがあったので,今回の引き下げに議論が足りないのではないかという指摘が出てきたのではないかと思われます。

自分の整理もかねて,法改正を追っかけてみましたが,誤りがあったらごめんなさい。読者の皆様も各自で原典に当たって確認してみてください。改正法案等は衆議院や参議院のホームページで確認できると思います。