就職活動の視点から履修科目をみる!
第2弾は建設業界です。
金融業界が気になっている人は下記記事をご参照ください。
法学部の履修科目と就職活動
他の記事でも書きましたが,重要なことなので再掲しておきます。
すでに他の記事で読んだ方は飛ばしてもらってOKです。
法学部出身だから必ず法務系の部署に配属されるということはないです。
むしろ法務系の部署は少数精鋭であることが多いので,ほかの部署に配属になることがほとんどだと思います。
ですので,就職活動との関係では,法律専門科目で学んだ知識を就職先で直接的に活用する,というよりは
- 業界を知るきっかけとして
- 業界を取り巻く制度や法規・ルールを知る
- 法改正の流れをおさえることで業界の流れやトレンドを知る
- 業界で生じている法的な紛争類型を知る
というイメージになると思います。
法律専門科目の履修を通じてその業界に興味を持ったというのは,その業界を志望するきっかけとして十分にエントリーシートに記入できるものだと思いますよ。
ただし,しっかりとエントリーシートへの記述内容に「肉付け」は必要ですが。
建設業界を目指す人におすすめの履修科目
法学部生で建設業界を目指す人はどれくらいいるのでしょうか。
業界のすそ野も広いので,人数としては結構いるかもしれませんね。
また民法の事例問題でも家の建築中のトラブルとかも多いですよね。
そのあたりから建設業界に興味を持つ人もいるかもしれません。
では,建設業界を目指すときにどんな法律専門科目を履修するのがよいのでしょうか。
建設業界を目指す人におすすめの履修科目はこちら!
民法(民法総則,物権・担保物権,債権総論,契約,不法行為)
不動産登記法
労働法
経済法
国際(商)取引法
民法
民法は必須ですね。
民間企業志望なら民法を学んでおいて損することはないでしょう。
市民社会の基本ルール,私法の一般法ですからね。
民法の理解が不十分では,ほかの私法の特別法の理解はおぼつきません。
そのなかでも建設業界を目指す人には,以下の分野を重点的に履修することをおすすめします。
- 民法総則
- 物権・担保物権
- 債権法(債権総論・契約・不法行為)
民法総則
意思表示や時効など,超重要事項が含まれる分野です。
建設業界にとっても重要というよりは,取引,契約の基本中の基本です。
法学部生ならほとんどの方が履修しているとは思いますが,あえて挙げる必要はないかもしれないですが,民法総則の理解が怪しいと他の科目の理解も厳しくなることがありえますので,しっかりと学びましょう。
物権・担保物権
建設業の本業は,建物(不動産)の建設ですよね。
土地(不動産)の上に建物(不動産)を建てる。
これらの権利関係がどうなるのかは非常に重要な話です。
Aが,Bから土地を借りて,建設業者Cに依頼してビルを建設するとき,Aにビルの所有権が発生するのはいつ?といった問題が典型でしょうか。
また,このような例で,Aさんは自己資金のみでビル建設することはレアケースで,通常は資金をどこかから調達することになります(銀行から借りることが多いでしょうね)
その際,無担保でお金を貸してくれることはほとんどないでしょうから,抵当権を設定することが多いでしょう。
所有権や地上権などに加えて,抵当権をはじめとするの担保物権の知識についても日常的に必要になるでしょうね。
建設業界を志望する法学部生なら必須の履修科目だと思います。
債権法(債権総論・契約・不法行為)
建設業の契約は,基本的には建築請負契約です。
この契約の特徴として,建築開始から建物完成まで長期間にわたることが多いので,途中で大小問わずトラブルが発生することが多いです。
建物が一応完成した後でも不具合などが見つかることもありますよね。
そのようなトラブル発生時に誰が責任を持つのか(費用を負担したり,損害を賠償するのか)といった問題についての基本原則を学ぶのが民法の債権法です。
より一般的な契約の履行・不履行の問題については債権総論,契約類型に応じた個別のルールを学ぶのが契約です。
建物の建設は,基本的には「請負契約」という契約類型です。
また,不法行為についても学んでおくことをおすすめします。
家を建築する際に,隣の家の塀を壊してしまった,といったことはよく発生します。
隣家との関係では契約責任ではどうにもなりませんから不法行為のルールで処理することになります。
講義としては,「債権総論」「契約」と一つずつの場合もあれば,「債権総論」「債権各論(契約・事務管理・不当利得・不法行為)」となっている場合や,「債権総論と担保物権」となっている場合もあるようです。
不動産登記法
建設業界にとって不動産登記法が関係するのはなんとなくイメージできますよね。
建設する側ではなく,施主側の方が登記に関心が強いと思いますが,用語の意味くらいは知っておかなければ会話が成り立たず,恥ずかしい思いをするかもしれませんし,どうせ入社後に学ぶことになるなら時間のある学生の時に専門家である大学の先生から学んでおくことをおすすめします。
実際の手続的なところは,司法書士さんがやってくれると思いますが,司法書士さんとのやりとりも発生するでしょうから,建設業界に勤める人の共通言語を学ぶつもりで履修するとよいでしょう。
労働法
建設業界でなぜ労働法?と思う人もいるかもしれませんね。
ゼネコンに就職した後は,現場に赴いて現場監督をすることがあると思います。
現場監督としては施行管理も重要ですが,下請けの会社の従業員さんや職人さんの安全面の管理や労働時間の管理などが重要になります。
また,ケガをした場合には労災保険の問題も発生するでしょう。
総務部・人事部・法務部に配属にならなくても,労働基準法,労働安全衛生法や労働者災害補償保険法あたりの基本的な知識は持っておいた方がいいでしょう。
経済法
経済法の中心的な法令は独占禁止法ですが,建設業界志望という視点では,独占禁止法の不当な取引制限(入札談合)・入札談合等関与行為防止法と下請法が重要です。
建設業界と談合,近年では減ってきているようですが,定期的に報道で摘発された記事がでますね。
また建設は一社のみで完結することは少なく,下請契約で多くの工務店などと協力することが多いです。
基本的に元請会社の方が企業規模が大きく,下請会社は交渉力が小さいことが多いため,元請会社から下請会社に対して無茶ぶりが発生しがちです。
無茶ぶりが横行すると下請会社が疲弊してしまいますので,そこの部分にブレーキをかけているのが下請法です。
履修科目としては,「経済法」もしくは「独占禁止法」で下請法まで扱うことが多いですので,この1科目の履修するだけで大丈夫なことが多いです。
国際(商)取引法
やや高度な内容になりますが,大手ゼネコンを志望するなら,おすすめの履修科目として国際(商)取引法を挙げたいと思います。
というも,大手ゼネコンとなると国際的な建築工事や超大型建設となると他社と組んだり,資金調達なども複雑になります。
このあたりを扱う科目が国際(商)取引法です(念のためシラバスも確認してくださいね)。
建設と密接に関係するのがジョイント・ベンチャー(JV)です。
言葉自体は聞いたことがあるかもしれませんね。
超大型の事業,建設では,そもそも一社のみで対応することが難しい場合や責任を分散しておく必要がある場合などがあります。
そういうときには,複数の企業が共同して出資を行い,ジョイント・ベンチャーで事業や建設を進めることが多いです。
少し高度な内容ですが,仕組みや契約形態などを知っておいて損はありません。
大手ゼネコンを目指すならおすすめの履修科目です。
建設業界を目指す人におすすめの履修科目のまとめ
建設は一定期間にわたって行われるものですから,売買などの一回的な契約とは異なる面が多いです。
また,一社だけでなく,複数社が関係することも多いです。
法学部としては,そういった場合にどのようなルールが必要か,という視点をもっておきたいですね。
冒頭でも書いた通り,法務系に配属になる人は少ないですが,その他の部署でも法的な視点から建設業では何が行われているのかを知っておくことは,就職活動でもプラスになると思います。
上記科目を学ぶことで,業界を知るきっかけ,法学の視点からの業界研究,法改正の流れをおさえることで業界の流れやトレンドを知る,といったメリットもあると思います。
上記科目の履修は就職活動には必須ではなく,また,一個人の独断から選んだだけですが,業界を知るきっかけ,法学の視点からの業界研究などに役立ててもらえれば幸いです。
履修科目の選択に迷っている人がいれば,一つの参考にしてみてください。