昔の法学部は専門科目(法律科目)は2年生もしくは3年生以降にしか履修できないことが普通でした。1年生で履修できる法律科目といえば「法学入門」的なものしかなかったことが多かったです。そのころであれば大学の講義の受け方にも慣れ友達も増えて情報交換のためのネットワークが十分にできた以降に,専門科目が始まっていたので,わからないことがあっても学生同士でなんとか解決する素地がありました。
現在は,さまざまな理由がありますが1年生からすぐに法律科目を履修することができる大学が多いと思います。1年生では講義の受け方も不慣れで情報交換のネットワークもまだあまりないという人も多いと思います。そのような状態で専門科目を講義でつまづいてしまうと挽回できずに諦めてしまう人もいるのではないでしょうか。
もちろん「昔の方がよかった」などと言うつもりは毛頭ないです。専門科目に早めに触れることには大賛成です。だって法学・法律を学びたくて法学部に入学したのにしばらくお預けなんてモチベーションが下がっちゃいますよね。
1年生~2年生で履修できる科目としては憲法・民法・刑法あたりでしょうか。
今回は民法の話です。
民法のはじめ――民法総則って?
1年生で履修できる民法の科目としてはまず「民法総則」という分野を学ぶことになると思います。
(大学によっては民法総則の前に「民法入門」というのがあるかもしれませんが,ひとまずそれは措いておきます)
きっと予備知識なしで民法総則の講義を受け始めると思っていたのとイメージが違うと感じる人も多いと思います(法学に限らず大学の講義ってだいたいイメージと異なることが多いですけどね)。民法を学ぶというとテレビの法律相談番組のようなものをイメージして「こういうトラブルの場合はどっちが勝つのか」という事例をどんどん教えてもらうのかなと思っている人もいるかもしれないですね。
そういうイメージで民法総則の講義にのぞむとイメージとのギャップがすごいと思います。とにかく抽象的なことが多いと感じるのではないでしょうか。
これは民法がパンデクテンという方式をとって構成されていることにも一因があります。
パンデクテン?
ごく大雑把にいうと,パンデクテンとは法律を作成する際に一定の範囲内で共通するルールを個別的なルールの前にまとめてくくり出して条文を並べることを指します。
誤解を恐れずに言えば,民法として必要なルールのすべてを重複をいとわず並列的に並べるのではなく,因数分解をして,共通事項を前にくくり出すのです。
abcというルールとabdというルールとaegというルールがあるとすると
abc+abd+aeg = a{b(c+d)+eg}
というように因数分解して全体に共通するaというルールをまず最初に規定し,cとdに共通するbというルールはcとdの前に規定を置くということになります。
(あくまでイメージですよ!)
日本で民法を明治期にはじめて制定するときにドイツ法の方式(パンデクテン)を参考にしたそうです。
パンデクテンと民法総則
民法は私人間の取引に適用される一般法です。その中でも民法総則は民法の冒頭に規定されています。上記のとおりパンデクテン方式では共通するルールが前にくくり出されるわけですから,冒頭に置かれているということは私法全体・民法全体の共通ルールということになります。抽象度が高くなるのは当然ですね。
民法総則が民法の後半におかれている親族法相続法にも適用があるのかという問題がありますが,ここではひとまず措いておきます。ですので,ここでいう民法全体はひとまず財産法(1条~724条の2まで)をイメージしてください。
民法総則の勉強の仕方――学ぶ順番を工夫してみよう
まず民法総則の構成を確認してみましょう。
- 第一編 総則
- 第一章 通則 (第1条・第2条)
- 第二章 人 (第3条~第32条の2)
- 第三章 法人 (第33条~第84条)
- 第四章 物 (第85条~第89条)
- 第五章 法律行為 (第90条~第137条)
- 第六章 期間の計算(第138条~第143条)
- 第七章 時効 (第144条~第174条)
多くの講義はこの構成に従って講義が進むのではないでしょうか。
じつはこれがくせ者で抽象度の高い民法総則の中でもさらに抽象度の高い通則,人(法人),物から学び始めると思い描いていた民法の勉強とのイメージとのギャップが大きすぎてモチベーションが下がってしまうのではないでしょうか。
そこでひとまず「第5章 法律行為」から学び始めることをおすすめします。
(もちろん講義には出席してくださいね。並行して自習するときの学び方です)
この分野は契約や取引に関することの基本で上記の民法のイメージと近いものだと思います。もちろん抽象度の高い議論もなくはないですが中心は契約,取引に関することです。
しかもここは総則の中でも最重要ポイントで定期試験にも頻出分野です。事例問題(論述式)で出題されることも多いでしょう。
まずこの分野をしっかり学んで,取引や契約の基本を把握しましょう。
そしてそれを踏まえて,基本となる契約・取引の形となにが異なっているのかという視点で人や物の分野を見直してみましょう。これはあくまで個人的な感想でしかありませんが,この順番の方が制限行為能力者の取消しなどの意味を捉えやすいのではないかと思っています。
民法総則のはじめの方でつまらないとかわからないとか感じている人は試してみてください。
おすすめの民法入門書
最後に入門書としておすすめを1冊あげてみます。
プレップシリーズは良質な入門書が揃っていますが,プレップ民法は民法に苦手意識を持っている人におすすめです。
売買を基本として話が進んでいきますので読者も具体的イメージをもって読み進めることができます。
さらに民法を一通り学んだあとにもう一度読み返すとさらなる発見やこの本の良さを再認識することになると思います。
文体も比較的読みやすいと思いますので気になる方はチェックしてみてください。