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名前の読み仮名は自由?戸籍に読み仮名が必要になるかも

名前の読み仮名は自由?戸籍に読み仮名が必要になるかも法学部

2021年9月7日,上川法務大臣は記者会見で戸籍の氏名に「読み仮名」を記載するかどうかの検討を始めるべく,法制審議会(法務大臣の諮問機関)に諮問すると発表しました。

法務省も参加する有識者による研究会での検討結果も参考にしつつ,法制審議会で検討が進められると思います。この有識者の研究会は「氏名の読み仮名の法制化に関する研究会」で,本記事を書くにあたり,「氏名の読み仮名の法制化に関する研究会取りまとめ」も参考にさせていただきました。

方向性としては,読み仮名をつける方向の改正を実現するために検討が進められるようで,報道によると,2023年(令和5年)の通常国会に法案を提出することを目指すようです。

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名前の読み方は自由?戸籍に読み仮名は登録されていない?

そもそも個人の名前の読み方(名乗り)は,通例は一通りですよね。

でも,国の戸籍には読み仮名が登録されていないのです。

過去には読み仮名の申し出を受理していたこともありましたが,現在は廃止されています。完全に廃止されたのは,それほど昔ではなく,平成6年のことです(平成6年11月16日付け民二第7005号民事局長通達)。完全廃止は平成6年ですが,その頃にはすでに傍訓の申し出(読み仮名の申し出)はほとんど事例がなかったようです。

ちなみに,戸籍の傍訓の申し出(読み仮名の申し出)が認められていたころは,名前に使った文字の読み方や字義に全く関連を有しないときには,受理すべきではないとされていました(昭和56年7月17日付け民二第3742号民事局長通達)。

そもそも戸籍って?

法務省のウェブサイトによれば,戸籍は下記のように説明されています。

戸籍は,人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので,日本国民について編製され,日本国籍をも公証する唯一の制度です。戸籍事務は,市区町村において処理されますが,戸籍事務が,全国統一的に適正かつ円滑に処理されるよう国(法務局長・地方法務局長)が助言・勧告・指示等を行っています。

法務省ウェブサイト

戸籍は,①民法上の親族関係を明らかにするものであり,②日本国籍を公証するものである,としています。

つまり,個々人の名前の読み方を登録するというよりは,上記の2点を証明したり,管理したりするためのものにすぎず,名前の読み仮名は,上記2点の機能を果たすために必須ではないと(国や法務省が?)判断してきたので,これまで戸籍に読み仮名が不要とされてきたと思われます。

出生届に読み仮名はあるの?

戸籍に読み仮名が登録されていないとしても,出生届には読み仮名を記入する欄があるよね?と思った人も多いと思います。

毎年,その年に生まれた子につけられた人気の名前ランキングとかでも読み方も記載されていますよね。

たしかに出生届には読み仮名の記入欄はあるのですが,これはあくまで各自治体の住民票の登録に使われるだけで,戸籍には反映されないのです。

出生届や住民票だけでなく,パスポートにも読み仮名,というか,ローマ字表記の名前が登録されています。

こうなってくると,なぜ戸籍にだけ読み仮名がないの?となりますね。当然,現在(2021年9月)の戸籍法にも読み仮名についての規定はありません

なぜいま戸籍に読み仮名をつけるための法改正の検討を始めたの?

なぜ今になって,戸籍に読み仮名をつけるための法改正を検討し始めたのでしょうか?

いくつか理由があるようですが,主なものを下記に掲げます。

  • 政府のデジタル化推進(読み仮名があるとデータ管理がしやすい)
  • 海外でのマイナンバーカードの使用開始(ローマ字表記をしたい)

さほど複雑な理由があるわけではなく,シンプルにデータの利用がしやすくなるという点に尽きるでしょう。

なんらかの給付金等がある場合に,政府が戸籍情報を利用しようとしても,現状では読み仮名がないので,「名寄せ」(個人の特定)に時間がかかってしまうという不都合が現実に生じているようです。

また,民間目線では,銀行口座の開設など,反社会的勢力対策として,本人確認が厳しくなってきていますが,マイナンバーカードなどに読み方も記載されれば,より厳格なチェックが可能となり,不正利用等を防ぐことにもつながりそうです。

戸籍に読み仮名をつけるにあたって検討すべき事項

過去の検討

戸籍に読み仮名をつければ,明らかに便利になります。ですが,便利になることが分かっているにもかかわらず,なぜ今までやってこなかったのでしょうか。

前提として,戸籍に読み仮名をつけることの検討は今回が初めてではありません。過去に3回検討されたことがあります。

昭和50年2月28日民事行政審議会答申
「漢字それ自体の読み方にそぐわないふりがなを付して届出がされた場合の処理や,後日におけるふりがなの訂正の方法などにつき,多くの実務上の問題が派生するので,この問題は,今後の検討にまつべき」
昭和56年5月14日民事行政審議会答申
「無原則に読み方が登録されると,かえって混乱の生ずるおそれがあり,かつ,混乱を防ぐためにどの範囲の読み方が認められるかの基準を立てることは必ずしも容易ではなく,戸籍事務の管掌者においてその読み方の当否を適正に判断することには困難を伴うことが予想される。また,振り仮名の訂正又は変更をどのような手続で認めるかについても,なお検討すべき余地が残されている。これは,氏についても同様である」
戸籍制度に関する研究会最終取りまとめ(平成29年8月1日戸籍制度に関する研究会資料22)
「戸籍実務上及び一般国民の社会生活上混乱を生じさせることになるものと考えられることから,戸籍に振り仮名を記載する取扱いとすることについては,その必要性や国民の意識も踏まえ,なお慎重に検討すべきである」

上記の3回の検討でも,読み仮名をつけることのメリット人の特定がより容易になる本人確認が厳格になり不正使用等が防げるなど)が挙げられています。

それでも,慎重論が強かったのは,読み仮名を無制限に認めるのか否か,読み仮名に一定の制限をかけるとしても,戸籍事務においてその制限に反しているかどうかの判断をするのは困難ではないか,という点が大きかったと思われます。

大雑把に言えば,「名前の漢字から判断して到底読むことができないと思われる読み仮名は認めない」としても,その判断はかなりの困難を伴うことが予想されます。

上記の通り,戸籍の傍訓を認めていた頃も名前に使った文字の読み方や字義に全く関連を有しないときには,受理すべきではないとしていました(昭和56年7月17日付け民二第3742号民事局長通達) 。

ここでは,一定の音訓(読み)だけでなく,字義も考慮要素に入っています。

例えば,「」という名前で,「あい」や「めぐみ」といった読みは認められますが,「らぶ」となった場合はどうでしょうか。かなり微妙な事例になりそうです。

今後の検討事項

今後の法改正に向けた検討で,国民的な関心を呼びそうな論点は以下のものでしょう。

  • 読み仮名の自由度をどこまで認めるのか

いわゆる「キラキラネーム」をどこまで許容するのか,が問題になりそうです。

また,もし一定の規制をかけるとすると,すでに難読の名前(キラキラネームなど)の人の扱いはどうなるのでしょうか。受け取り方によっては,自分の名前が否定されたように感じてしまう人も出てくるかもしれません。

法の遡及適用はないとしても,これまでは認められてきたキラキラネームが認められなくなるとすると,ひと悶着ありそうですね。

戸籍事務の担当者目線でも,不受理とするラインの曖昧さは必ず残るでしょうから,窓口でどこまで審査するのか,という点も重要です。

冒頭に紹介した「氏名の読み仮名の法制化に関する研究会」は,なんらかの制限をかける方向性のようですが,一般条項的な制限にとどめるのか(公序良俗に反しないなど),もう少し具体的な制限をかけるのか(上記の「昭和56年7月17日付け民二第3742号民事局長通達」のような制限),については両論併記になっていました(やや前者の方法〔一般条項的制限〕が優勢のようにも読めました)。

その他,いくつか主な検討事項を挙げてみます。

  • ひらがな・カタカナの名前に読みと異なる読み仮名をつけることができるか
  • 兄弟姉妹なのに,それぞれが異なる苗字の読み方を申請した場合はどうするか
  • 読み仮名だけ変更するのに家庭裁判所の許可は必要か
  • そもそも読み仮名の法的性質は?
  • 読み仮名に「ヴ」とか「ファ」とかは使えるのか
  • これから生まれてくる人はともかく,それ以外の人の名前の読み仮名をどうやって調べるのか
  • 各種の手続

さいごに

戸籍に読み仮名をつけるとすると,いろいろと検討事項が多そうですね。

個人的には,戸籍に読み仮名を記載して,さらにマイナンバーも戸籍に記載してしまえば大体のことは解決できそうなのに……と思っていますが,マイナンバーに反対の人ってまだ結構たくさんいるんでしょうね。

マイナンバー制度自体には賛成でも,戸籍はセンシティブなものだから,マイナンバーと紐づけてほしくないという人もいるかもしれません。

マイナンバーと戸籍を完全に紐づければ,戸籍に読み仮名をつけるとしても,読み仮名にそれほど強い制限をかける必要もなさそうですが,一気にそうしないということは,国としては,マイナンバーと戸籍の紐づけはまだ議論が必要で,ハードルが高いと判断しているということでしょう。

今回の戸籍の制度改正のための検討開始を契機として,高度な情報セキュリティーを確保しつつ,できるだけワンストップで行政サービスが受けられる利便性の高い制度構築に近づくことを期待しましょう。