先日,調べ物があって,久しぶりに注釈民法を繙きました。
法学部の民法のゼミなどに所属していれば,自分の報告回の資料作成などで注釈民法を参照することもあると思います。
民法のゼミでなくとも,『注釈民法』という言葉を耳にしたことがある法学部生も多いのではないでしょうか。
今回は,注釈書について記事にしていきたいと思います。
(注釈民法については,また後日別記事にしたいと考えています)
そもそも注釈書ってなに?
注釈の一般的な意味
「注釈」とは,ある文章や語句について,それが意味する内容を補足・解説すること,またはその補足・解説の文章そのものを指します。
たとえば,孔子の論語について,孔子の言葉はこういう意味ですよ,と解説しているのも注釈です。
また,本居宣長の『古事記伝』も『古事記』についての注釈書ですね。
法学における注釈書
法学において,注釈書といえば,条文を1条ずつ(場合によってはさらに細かく1項ずつなど)解説していくものを指します。
この学問手法の始まりは,あまり詳しくないので正直私にはわかりませんが,ドイツの注釈学派(註釈学派)〔リンク先:Wikipedia〕は11世紀から13世紀にかけて活躍していたようです(古代ローマ法に注釈をつけていた)。
いまでもドイツは法律の注釈書の刊行が盛んであり,日本もそれにならって注釈書の刊行を始めたと思われます。
ドイツの注釈書の代表的なものとしては,ミュンヘナー・コンメンタール,シュタウディンガー・コンメンタールなどがあります。
日本の注釈書
日本の法律(近代法)は,明治以降のものですので,注釈書も明治期がその始まりです。
民法の起草者である梅謙次郎『民法要義』は初期の代表的な注釈書ですね。
現在の注釈書として代表的なものとしては,有斐閣の『注釈民法』(『新版注釈民法』『新注釈民法』),『注釈日本国憲法』,『注釈刑法』,『注釈民事訴訟法』,『注釈会社法』(←まだ会社法が商法の中にあったころのものです)などの『注釈』シリーズ,日本評論社の『新基本法コンメンタール』シリーズ(『基本法コンメンタール』シリーズ)(判例百選のようないわゆるムック形態です),『コンメンタール民事訴訟法』,『我妻・有泉コンメンタール民法』,『新・コンメンタール』シリーズ(『新・コンメンタール民事訴訟法』など),弘文堂の『条解民事訴訟法』,『条解民事執行法』,『条解刑事訴訟法』,『条解刑法』などをはじめとした『条解』シリーズ,青林書院の『大コンメンタール刑法』,『大コンメンタール刑事訴訟法』,『大コンメンタール破産法』などの『大コンメンタール』シリーズ,商事法務の『会社法コンメンタール』あたりでしょうか。
(リンク先はAmazonの検索結果です)
ちなみに,注釈書のことを「コンメンタール」とも呼びますが,これはドイツ語からきています。
明治期の法整備段階で,大陸法(主にドイツとフランス)を継受したことがおおきく影響していると思われます。
日本の注釈書の中で,歴史も古く,また巻数も多いのが民法の注釈書の『注釈民法』だと思います。民法ゼミの資料作りや法科大学院の予習などでもよく図書館で参照しました。
ただ,この注釈民法,3つあるんですよね。
古い順に『注釈民法』,『新版注釈民法』,『新注釈民法』の3つです。
単純に改訂されているだけじゃないの?と思うかもしれませんが,3つめの『新注釈民法』は改訂ではなく新しいシリーズのようです。
法律の注釈書の内容・構成
法律の注釈書は,細かな違いはもちろんありますが,だいたい下記のような構成になっています。
条文
注釈する対象となる条文をそのまま掲げています。
本条の趣旨
条文をすこしかみ砕いて,条文が意味する内容の概要やその条文が想定している典型的な適用場面などを示しています。
沿革
その条文の成り立ちですね。
たとえば,日本の民法は,ドイツ法とフランス法を継受していますので,ドイツ法やフランス法の概要や制定時の日本での議論状況,起草者の意図などが示されています。
比較法
他国における同様の場面に適用される法制についての紹介・解説です。
日本法の解釈の手がかりや今後の改正の方向性を示すという意味があります。
条文の解釈
条文の解釈についてです。
ここが注釈書の主要部分です。
条文をある程度の固まりに分解して,その意味内容や解釈について解説していきます。
学説
条文解釈についての学説の状況を整理します。
判例
その条文文言に関する判例を紹介・解説します。
自説
学説・判例を踏まえて,執筆者の自説が展開されることもあります。
注釈書が使われる場面
実務
依頼内容に近い判例を探す,争点となっている条文についての判例・学説を調べる,自己の主張の補強材料となる学説がないかを探す,といった場面で使われることが多いようです。
研究
注釈書は,執筆当時の研究・判例の到達点を示していると見られていますので,研究の前提としてそれを把握したり,執筆者の学説を確認したりなどの場面で使われることが多いそうです。
学習
学生の普段の学習に大きな注釈書が必要な場面はあまりないかもしれませんが,ゼミの発表などで資料作成が必要な場面では注釈書はとても役に立ちます。
関連する判例や学説などが紹介されていますから,注釈書をとっかかりにして,芋づる式に調べ上げていけば,ゼミでの議論に耐えうる十分な資料を作ることができるでしょう。
法律の注釈書のまとめ
上記の通り,注釈書にはこれまでの研究(学説)や判例の蓄積のエッセンスが凝縮されています。
法学部生や各種資格試験等の普段の勉強では必要になる場面がそれほど多くはないかもしれませんが,教科書や体系書の説明ではいまいち理解できないときに,注釈書を繙くとその疑問が氷解するかもしれませんよ。
(実際に私は何度もそういうことがありました)