春は新年度が始まるということもあって,法学のテキストもたくさん刊行されます。
新年度の大学の講義にあわせて,法改正に対応した改訂版が多く刊行されますね。
もちろん改訂版に限らず,新しいテキスト(新刊)も刊行されます。
今回は(改訂版を除いた)法学の新刊テキストのおすすめをいくつか紹介していきたいと思います。
憲法編
木下昌彦編集代表/片桐直人・村山健太郎・横大道聡編『精読憲法判例[統治編]』(2021,弘文堂)
2018年に姉妹本の『精読憲法判例[人権編]』が刊行されていましたが,ついに統治編もかんこうになりました。待ち望んでいた人も多いのではないでしょうか。
憲法の判例テキストについては,憲法判例百選Ⅰ・Ⅱをはじめとして,数多く刊行されていますが,本書はタイトルに「精読」とある通り,詳しめの解説となっています。法学部生向けというよりは,主には法科大学院生向け・予備試験受験生向けなのでしょうね。
姉妹本の人権編も評判がよいですので,法学部生でも将来的に司法試験や資格試験の受験を考えている人にはおすすめです。
本書で特徴的なのは,判決文に注を付けていく方式で,解説を付けているところです。1頁を左右に分割して,左側に判決文,右側に解説となっています。判決文と解説を照らし合わせながら,判決の意味を確認できるのでとても勉強しやすいと思いますよ。
民法編
山本敬三監修/香川崇・竹中悟人・山城一真著『民法1 総則』 (有斐閣ストゥディア)(2021,有斐閣)
2018年に同じストゥディアシリーズの『民法4 債権総論』が刊行されています。このストゥディアの債権総論,とても評判が高いです。かなりコンパクトなテキストなのですが,法学部生のみならず,法科大学院生や予備試験受験生にも人気です。
その人気の秘訣はわかりやすさです。かなりかみ砕いた解説になっており,とっつきやすさ・わかりやすさは現状ピカイチではないでしょうか。
債権総論の刊行後,ほかの民法の分野の刊行を待っていましたが,ようやく本書・民法総則が刊行になりました。執筆者は債権総論とは異なるようですが,コンセプトは維持されているようで,かみ砕いた説明でとてもわかりやすいテキストになっています。
このわかりやすさがどこからきているのか,ちょっと考えてみましたが,事例の表現の仕方にあるのではないかと(勝手に)分析しています。
民法なので,売買をはじめとした取引が事例の中心になるのですが,学生は契約や法律を意識するような取引なんてしないですよね。せいぜい下宿の学生が賃貸借契約をする程度ではないでしょうか。
ですが,民法のテキストには,不動産の売買や高額商品の売買,建物建築の請負契約などがたくさん出てきます。それらを題材に事例として取り上げ,具体的イメージを読者(学生)に持ってもらう工夫はこれまでのテキストでも見られた手法ですが,ストゥディアの民法はこれをさらに一歩進めて,取引や契約のイメージのしづらさを取り除くように丁寧に叙述されている印象ですね。
刑法編
佐久間修・橋本正博編/森永真綱・嘉門優・岡部雅人・南由介著『刑法の時間』(2021,有斐閣)
刑法の入門書ですね。
刑法は刑法総論・刑法各論と2分冊になっていることが多いのですが,本書は1冊です。
刑法の本って結構ゴツイのが多いのですが,本書は250ページとコンパクトにまとまっており,28章構成(本書では28“話”としています)で,1章(1話)の分量も少なく,一つ一つをくじけずに読み通すことができるようにしてあります。
刑法については,結果無価値と行為無価値という2つの考え方があり,テキストを買う際にも気にする人もいると思います。
ただ,少なくとも入門段階や法学部の定期試験に対応するためであれば,あまり気にする必要はないと思っています。それよりも自分が読みやすいと感じるテキストを選ぶことが重要だと思いますよ!
商法・会社法編
川井信之著『手にとるようにわかる会社法入門』(2021,かんき出版 )
本書は2021年春の会社法テキストの改訂版についての下記の記事でも紹介しましたが,はじめの1冊としてはとっつきやすいのではないでしょうか。
解説もとても分かりやすいですし,図表やイラストもふんだんに使われていますので,一気に読み通すことができると思います。
法律の学習においては,この,まず1回読み通すというのがとても重要になると思っています。法律は複雑に絡み合っていることが多いので,大まかにでも全体像が頭に入っているのと,入っていないのとではその後の学習効率に大きな差が出ます。
本書は条文番号の引用などは省略されているので,これ1冊だけで試験などに対応するのは難しいかもしれませんが,本格的なテキストに入る前に読むことをおすすめします!
会社法のテキストはページ数の多いものがほとんどなので,全体像が頭に入っていない状態で,詳しめのテキストを読み始めると会社法の森に迷い込んで挫折してしまうこともありますよ。
民事訴訟法編
渡部美由紀・鶴田滋・岡庭幹司著『ゼミナール民事訴訟法』(2020,日本評論社)
日本評論社にはNBS(日評ベーシック・シリーズ)というテキストシリーズがありますが,同じ著者による副読本です。(NBSの『民事訴訟法』はこちらです)
本書は副読本で,トピックごとにやや詳しめの解説をしています。
あくまで副読本ですので,テキストを読みながら,もっと深く知りたいところ,理解があいまいなところなどを選んで読むという使い方がよいと思います。
民事訴訟法の勉強が一通り終わっているなら,通読してもよいと思います。あとはゼミでの発表のための資料作りや調べものに使ってもよいと思います。
(ただ,詳しいことはここでは省略しますが,民事訴訟法については,勉強が一通り終わるまでは副読本にがっつり手を出すのは避けた方が無難だと思います。全体像の理解を優先することをおすすめします)
刑事訴訟法編
吉開多一・緑大輔・設楽あづさ・國井恒志著『基本刑事訴訟法2――論点理解編』(2021,日本評論社)
本書の1は2020年6月に刊行されています。1は手続理解編です。
それに対して,2は論点理解編です。ですので,2だけ購入すると学習効率はかなり下がりますので,本書を買うなら,1と2セットで買いましょう。
日本評論社の基本○○法シリーズは,法科大学院生や予備試験受験生に人気ですね。
本書・基本刑事訴訟法も人気で,事例と設問,豊富な図表などで,ページ数は多いですが,理解しやすいように工夫が随所に施されています。
法学のシリーズもので,コンパクトなテキストは有斐閣のストゥディアシリーズ,厚めのテキストはこの基本○○法シリーズが人気という印象ですね。
自分の勉強の到達点や勉強スタイルによって使い分けるのがよいと思います。