たまには時事問題も。
レポートのネタにもなるんじゃないでしょうか。
報道によると,2020年7月29日,最高裁第3小法廷は那覇市の孔子廟についての住民訴訟を大法廷に回付したそうです。
那覇市孔子廟事件の概要――政教分離違反?
本件訴訟は今後なんらかの一般的に通用する事件名がつきそうですが,ひとまず那覇市孔子廟事件と呼んでおきます。
事件概要は以下のとおりです。
那覇市の公共施設である松山公園内にある一般社団法人が孔子廟(孔子を祭る廟)を建てたのですが,市はこれを「体験学習施設」として宗教性がないものとして,条例に基づき公園の使用料を免除しました。
この那覇市の公園の使用料の免除(無償で使用させること)が違法な支出であるとして裁判が始まりました。
孔子は儒教の祖ですのでそれを祭る廟というのは宗教的な色合いを帯びるともいえますね。このあたりが政教分離(憲法20条,89条)との関係で問題になるのかもしれません。
大法廷に回付?
最高裁判所(最高裁)には3つの小法廷と裁判官全員が参加する大法廷とがあります。
個別の事件についての判断は基本的には小法廷が分担して処理しますが,一定の場合には大法廷で判断することになります。
今回のこの那覇市孔子廟事件は第3小法廷にきたようですが,大法廷での審理が必要ということで,事件が第3小法廷から大法廷に移されました。ざっくりいえばこれが回付です。
どんなときに大法廷で判断するの?
では,どんなときに大法廷で判断されるのでしょうか。
これについては,まず裁判所法に定めがあります。
裁判所法
第10条(大法廷及び小法廷の審判) 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。
上記のとおり裁判所法10条の1号~3号に該当する場合は小法廷では裁判を「することができない」ので,大法廷での裁判となります。
また最高裁判所の規則(最高裁判所裁判事務処理規則)にも規定があります。
最高裁判所裁判事務処理規則
第9条 事件は、まず小法廷で審理する。
① 左の場合には、小法廷の裁判長は、大法廷の裁判長にその旨を通知しなければならない。
一 裁判所法第10条第1号乃至第3号に該当する場合
二 その小法廷の裁判官の意見が二説に分れ、その説が各々同数の場合
三 大法廷で裁判することを相当と認めた場合
② 前項の通知があつたときは、大法廷で更に審理し、裁判をしなければならない。この場合において、大法廷では、前項各号にあたる点のみについて審理及び裁判をすることを妨げない。
③ 前項後段の裁判があつた場合においては、小法廷でその他について審理及び裁判をする。
④ 裁判所法第10条第1号に該当する場合において、意見が前にその法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとした大法廷の裁判と同じであるときは、第2項及び第3項の規定にかかわらず、小法廷で裁判をすることができる。
⑤ 法令の解釈適用について、意見が大審院のした判決に反するときも、また前項と同様とする。
裁判所法と最高裁規則のポイントをごくごく簡潔にいうと
- 憲法判断をするときは大法廷が原則。
- 同じ問題について過去の大法廷の憲法判断(合憲判断)を踏襲するのであれば小法廷でもOK
- 違憲判断をする場合
- 憲法問題に限らず最高裁判例を変更する場合
- 小法廷の裁判官の判断が分かれそれぞれ同数のため多数説が形成不能の場合
- 大法廷で裁判することが相当と認めた場合
という感じです。
(正確なところは必ず教科書等で確認してください)
また裁判官の人事に関する裁判(懲戒など)について裁判官分限法に下記の規定があります。
(これは那覇市孔子廟事件には関係ないので,ご参考までに)
裁判官分限法
第4条(合議体) 分限事件は、高等裁判所においては、5人の裁判官の合議体で、最高裁判所においては、大法廷で、これを取り扱う。
那覇市孔子廟事件はなんで大法廷に回付されたの?
これについては以下は推測ですからね。
(こういう理由だから回付したよ!とは教えてくれないし)
政教分離に関する訴訟(憲法20条,89条)なので,憲法判断が必要になりそうです。
もっとも同種の問題について過去の大法廷の合憲判断を踏襲するのであれば小法廷でも判断可能なわけですが,憲法判断が必須で慎重な判断が必要として,大法廷に回付されたのでしょう(大法廷に回付されたからといって必ず違憲となるわけではないです。回付された後にはじめて15人で審理するのですから当然ですよね)。
最高裁大法廷がどのような判断を示すか注目しておきましょう。
なんらかの憲法判断を示す可能性は高いと思います。
政教分離に関する最高裁の裁判例
政教分離に関する裁判例にはどのようなものがあるのでしょうか。
主なものを挙げておきます。
民集=最高裁判所民事判例集
- 国有境内地処分法事件
最高裁昭和33年12月24日大法廷判決,民集12巻16号3352頁 - 津地鎮祭事件
最高裁昭和52年7月13日大法廷判決,民集31巻4号533頁 - 自衛官合祀事件
最高裁昭和63年6月1日大法廷判決,民集42巻5号277頁 - 箕面市忠魂碑慰霊祭事件
最高裁平成5年2月16日第三小法廷判決,民集47巻3号1687頁 - 愛媛玉串料事件
最高裁平成9年4月2日大法廷判決,民集51巻4号1673頁 - 即位の礼・大嘗祭参列事件
最高裁平成14年7月11日第一小法廷判決,民集56巻6号1204頁 - 空知太神社事件(「そらちぶと」と読みます)
最高裁平成22年1月20日大法廷判決,民集64巻1号1頁
レポートのネタとして
最高裁の判断が時事問題として取り上げられることがたまにあります。
こういったときにノートなどにごくごく簡単にでもメモをしておくと,自由テーマのレポート課題がでたときのネタになりますよ。
レポートのまとめ方の視点の一例
- これまで判例を調べる
- それに対する学説の評価等を調べる
- それを踏まえて新しい判例を読み直してみる
また,余力があれば,海外の状況などにも言及してみるとよいかもしれないですね。
今回の政教分離については海外ではどうなっているのでしょうね。
米国の大統領は就任式の宣誓時に聖書の上に手を置いていたりしますが,このあたりはどう理解するのでしょうか。
いろいろ考えてみると面白そうですね。