法学部の講義で,担当教員の先生が「判例百選」(あるいは単に「百選」)と言っていることを聞いたことがあると思います。
そもそも判例百選って何のことなんでしょうか。
判例百選とは?
判例百選は有斐閣が刊行している判例集のシリーズです。
雑誌形態で,いわゆるMOOKと呼ばれる形態ですね。
これまで262冊刊行されています(改訂版も含めて。2020年11月13日現在)。
同じく有斐閣が刊行している雑誌「ジュリスト」の200号記念で刊行されたのがそのはじまりです。
我妻栄・宮沢俊義編『判例百選(ジュリスト200号記念)』(1960)
もう60年も刊行され続けているんですね。
その後,我妻栄編『続判例百選』(1960),田中二郎編『行政判例百選』(1962),石井照久編『労働判例百選』(1962),芦部信喜編『憲法判例百選』(1963),鈴木竹雄編『手形小切手判例百選』(1963),田中英夫編『英米判例百選』(1964),矢沢惇編『会社判例百選』(1964),団藤重光編『刑法判例百選』(1964)が刊行されました。
ここまでは現在の判例百選についている通しナンバーが付いていませんでしたが,この次に刊行された平野龍一編『刑事訴訟法判例百選』(1965)が別冊ジュリスト判例百選〔No.1〕として通しナンバーを付した形での刊行が始まりました。
ただ,『渉外判例百選』と『渉外判例百選〔増補版〕』が両方とも〔No.16〕,『手形小切手判例百選〔新版〕』『手形小切手判例百選〔新版・増補〕』が両方とも〔No.24〕と通しナンバーがなぜか重なっているものがあります。
増補版だからでしょうか……?せっかくの通しナンバーなので,別のナンバーを付した方がよさそうですが,今となっては修正不可能ですね(以上は有斐閣のホームページで確認しました)。
判例百選なのに判例百選というタイトルでないものがある?
判例百選シリーズは,原則としてタイトルに当然『判例百選』が入っています。
ただ,変わり種(?)として,タイトルに判例百選が入っていないものがあります。
それがこちらです。
我妻栄編『続判例展望(判例理論の再検討)』(1973)
判例百選というよりは同じく有斐閣の『争点シリーズ』に近いでしょうか。
判例百選ってどんな内容なの?
判例百選は原則として見開き2ページで一つの判例を解説します。
(例外的に2ページではない判例もあります)
一つの解説は【事案の概要】【判旨】【解説】で構成されています。
事案の概要は裁判の対象となった事実(紛争内容,トラブル内容)を要約したものです。
判旨は判決文の要点の抜粋・要約です。
【事案の概要】と【判旨】でだいたい1頁弱,残りが【解説】のことが多いです。
判例百選って誰が書いているの?
主に,全国の大学の法学の研究者が書いています。
刑事訴訟法や民事訴訟法などでは,実務の運用も重要だからか,現役の裁判官,検事,弁護士が書いているものもあります。
例外もありますが,原則としては,一冊の判例百選の中では,一人が一件の判例を担当しています。
100件の判例が収録されていれば,100人弱の執筆者がいることになります。
判例百選って必ず100件の判例が収録されているの?
「100件近く」ですね,実態としては……。
一時期かなりオーバーしているものもありましたが,近年刊行されるものを眺めてみると,できるだけ100件に近づけようとしている傾向がうかがわれます。
ただ,新しい重要判例は次々に出てきますから,100件に厳選するのも難しいのでしょうね。
判例百選ってどうやって使うの?
まずは第一段階としては,【事案の概要】と【判旨】を読み,【解説】は後回しにすることをお勧めします。
教科書に出てくる判例をもう少し詳しく知るときに,判例百選の【事案の概要】と【判旨】を参照するというのがよいと思います。
判例百選に挙がっている判例は,すでに専門家によって「厳選」された判例ですので,どの判例も重要です。まずは,どんな重要な判例があるのか,その判例がどのような判断をしたのか,という点をしっかり修得することを目指すべきでしょう。
それだけでは理解しにくいときやもっと深く知りたいと感じたときは,【解説】まで読んでみてください。
ただし,これはあくまで法学部の定期試験レベルの話ですので,資格試験やゼミでの発表などでは,最重要レベルの判例については一定程度深く知る必要がありますので,【解説】まで読むこと,また解説で挙げられている参考文献まで読むことが必要になることもあると思います。
あまり【解説】を読むことを重視していない理由は,上記の通り判例百選はかなり大人数で書かれていますので,解説の仕方の統一感を出すのが難しいことがうかがわれ,また,解説のレベルが高いように感じられる項目もあります。少なくとも初学者は,まずは【事案の概要】と【判旨】をしっかり押さえることを優先しましょう。
すべての科目の判例百選の全項目について【解説】まで目を通すことは,時間的にも厳しいと思います。無理に解説を読んで生煮え状態になるのであれば,しっかりと教科書・体系書を理解することに時間を割くようにしましょう。