2022年臨時国会の会期末ギリギリで,最もホットトピックであった旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)をめぐる被害者救済法案が成立しました(2022年(令和4年)12月10日参議院可決)。
正式名称は「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」(令和4年法律第105号)です。きっかけは旧統一教会の問題ではありますが,もちろん旧統一教会のみを規制するものではありません。
最後まで与野党の攻防が激しかったのですが,政府が野党提案を一部織り込んだ修正案を示し,それを受けた立憲民主党が賛成に回ったため,一転してスムーズに可決されたと報道されていました。
提出時法案そのものよりも法案からの修正内容が気になったので,調べてみました。
衆議院・参議院のホームページを見ればわかることですが,修正履歴的に加工してみました。
このように示すと立憲民主党が賛成に回ったポイントがはっきりしますね。
見逃しがちですが,附則5条の施行後の検討が「施行後3年」から「施行後2年」に短縮されていますね。2年だとあっという間に検討,その後に法改正ということになるかもしれませんね。
第210回
閣第22号
法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律案
目次
第1章 総則(第1条-第3条・第2条)
第2章 寄附の不当な勧誘に関する規制の防止
第1節 配慮義務(第3条)
第12節 禁止行為(第4条・第5条)
第23節 違反に対する措置等(第6条・第7条)
第3章 寄附の意思表示の取消し等(第8条-第10条)
第4章 法人等の不当な勧誘により寄附をした者等に対する支援(第11条)
第5章 雑則(第12条-第15条)
第6章 罰則(第16条-第18条)
附則
第1章 総則
(目的)
第1条 この法律は、法人等(法人又は法人でない社団若しくは財団で代表者若しくは管理人の定めがあるものをいう。以下同じ。)による不当な寄附の勧誘を禁止するとともに、当該勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定めることにより、消費者契約法(平成12年法律第61号)とあいまって、法人等からの寄附の勧誘を受ける者の保護を図ることを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「寄附」とは、次に掲げるものをいう。
一 個人(事業のために契約の当事者となる場合又は単独行為をする場合におけるものを除く。以下同じ。)と法人等との間で締結される次に掲げる契約
イ 当該個人が当該法人等に対し無償で財産に関する権利を移転することを内容とする契約(当該財産又はこれと種類、品質及び数量の同じものを返還することを約するものを除く。ロにおいて同じ。)
ロ 当該個人が当該法人等に対し当該法人等以外の第三者に無償で当該個人の財産に関する権利を移転することを委託することを内容とする契約
二 個人が法人等に対し無償で財産上の利益を供与する単独行為
第2章 寄附の不当な勧誘の防止
第1節 配慮義務
(寄附の勧誘を行うに当たっての配慮義務)
第3条 法人等は、寄附の勧誘を行うに当たっては、次に掲げる十分に事項に配慮しなければならない。
一 寄附の勧誘が個人の自由な意思を抑圧し、その勧誘を受ける個人が寄附をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること。
二 寄附により、個人又はその配偶者若しくは親族(当該個人が民法(明治29年法律第89号)第877条から第880条までの規定により扶養の義務を負う者に限る。第5条において同じ。)の生活の維持を困難にすることがないようにすること。
三 寄附の勧誘を受ける個人に対し、当該寄附の勧誘を行う法人等を特定するに足りる事項を明らかにするとともに、寄附される財産の使途について誤認させるおそれがないようにすること。
第2章 寄附の勧誘に関する規制
第12節 禁止行為
(寄附の勧誘に関する禁止行為)
第4条 法人等は、寄附の勧誘をするに際し、次に掲げる行為をして寄附の勧誘を受ける個人を困惑させてはならない。
一 当該法人等に対し、当該個人が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二 当該法人等が当該寄附の勧誘をしている場所から当該個人が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該個人を退去させないこと。
三 当該個人に対し、当該寄附について勧誘をすることを告げずに、当該個人が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、当該個人をその場所に同行し、その場所において当該寄附の勧誘をすること。
四 当該個人が当該寄附の勧誘を受けている場所において、当該個人が当該寄附をするか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって当該法人等以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該個人が当該方法によって連絡することを妨げること。
五 当該個人が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該寄附の勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該個人に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該寄附をしなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること。
六 当該個人に対し、霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として、当該個人又はその親族の生命、身体、財産その他の重要な事項について、そのままでは現在生じ、若しくは将来生じ得る重大な不利益を回避することができないとの不安をあおり、又はそのような不安を抱いていることに乗じて、その重大な不利益を回避するためには、当該寄附をすることが必要不可欠である旨を告げること。
(借入れ等による資金調達の要求の禁止)
第5条 法人等は、寄附の勧誘をするに際し、寄附の勧誘を受ける個人に対し、借入れにより、又は次に掲げる財産を処分することにより、寄附をするための資金を調達することを要求してはならない。
一 当該個人又はその配偶者若しくは親族が現に居住の用に供している建物又はその敷地
二 現に当該個人が営む事業(その継続が当該個人又はその配偶者若しくは親族の生活の維持に欠くことのできないものに限る。)の用に供している土地若しくは土地の上に存する権利又は建物その他の減価償却資産(所得税法(昭和40年法律第33号)第2条第1項第19号に規定する減価償却資産をいう。)であって、当該事業の継続に欠くことのできないもの(前号に掲げるものを除く。)
第23節 違反に対する措置等
(報告)
第6条 内閣総理大臣は、前2条の規定の施行に関し特に必要と認めるときは、その必要の限度において、法人等に対し、寄附の勧誘に関する業務の状況に関し、必要な報告を求めることができる。
(配慮義務の遵守に係る勧告等)
第6条 内閣総理大臣は、法人等が第3条の規定を遵守していないため、当該法人等から寄附の勧誘を受ける個人の権利の保護に著しい支障が生じていると明らかに認められる場合において、更に同様の支障が生ずるおそれが著しいと認めるときは、当該法人等に対し、遵守すべき事項を示して、これに従うべき旨を勧告することができる。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた法人等がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3 内閣総理大臣は、第一項の規定による勧告をするために必要な限度において、法人等に対し、第三条各号に掲げる事項に係る配慮の状況に関し、必要な報告を求めることができる。
(勧告及び命令)(禁止行為に係る報告、勧告等)
第7条 内閣総理大臣は、第4条及び第5条の規定の施行に関し特に必要と認めるときは、その必要の限度において、法人等に対し、寄附の勧誘に関する業務の状況に関し、必要な報告を求めることができる。
2 内閣総理大臣は、法人等が不特定又は多数の個人に対して第4条又は第5条の規定に違反する行為をしていると認められる場合において、引き続き当該行為をするおそれが著しいと認めるときは、当該法人等に対し、当該行為の停止その他の必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができる。23 内閣総理大臣は、前項の規定による勧告を受けた法人等が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該法人等に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。34 内閣総理大臣は、前項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
第3章 寄附の意思表示の取消し等
(寄附の意思表示の取消し)
第8条 個人は、法人等が寄附の勧誘をするに際し、当該個人に対して第4条各号に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって寄附に係る契約の申込み若しくはその承諾の意思表示又は単独行為をする旨の意思表示(以下「寄附の意思表示」と総称する。)をしたときは、当該寄附の意思表示(当該寄附が消費者契約(消費者契約法第2条第3項に規定する消費者契約をいう。第10条第1項第2号において同じ。)に該当する場合における当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を除く。次項及び次条において同じ。)を取り消すことができる。
2 前項の規定による寄附の意思表示の取消しは、これをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
3 前2項の規定は、法人等が第三者に対し、当該法人等と個人との間における寄附について媒介をすることの委託(以下この項において単に「委託」という。)をし、当該委託を受けた第三者(その第三者から委託(2以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。次項において「受託者等」という。)が個人に対して第1項に規定する行為をした場合について準用する。
4 寄附に係る個人の代理人(復代理人(2以上の段階にわたり復代理人として選任された者を含む。)を含む。以下この項において同じ。)、法人等の代理人及び受託者等の代理人は、第1項(前項において準用する場合を含む。以下同じ。)の規定の適用については、それぞれ個人、法人等及び受託者等とみなす。
(取消権の行使期間)
第9条 前条第1項の規定による取消権は、追認をすることができる時から1年間(第4条第6号に掲げる行為により困惑したことを理由とする同項の規定による取消権については、3年間)行わないときは、時効によって消滅する。寄附の意思表示をした時から5年(同号に掲げる行為により困惑したことを理由とする同項の規定による取消権については、10年)を経過したときも、同様とする。
(扶養義務等に係る定期金債権を保全するための債権者代位権の行使に関する特例)
第10条 法人等に寄附(金銭の給付を内容とするものに限る。以下この項において同じ。)をした個人の扶養義務等に係る定期金債権の債権者は、民法第423条第2項本文の規定にかかわらず、当該定期金債権のうち確定期限の到来していない部分を保全するため必要があるときは、当該個人である債務者に属する当該寄附に関する次に掲げる権利を行使することができる。
一 第8条第1項の規定による取消権
二 債務者がした寄附に係る消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示に係る消費者契約法第4条第3項(第1号から第4号まで、第6号又は第8号に係る部分に限る。)(同法第5条第1項において準用する場合を含む。)の規定による取消権
三 前2号の取消権を行使したことにより生ずる寄附による給付の返還請求権
2 前項(第3号に係る部分に限る。)の場合において、同項の扶養義務等に係る定期金債権のうち確定期限が到来していない部分については、民法第423条の3前段の規定は、適用しない。この場合において、債権者は、当該法人等に当該確定期限が到来していない部分に相当する金額を債務者のために供託させることができる。
3 前項後段の規定により供託をした法人等は、遅滞なく、第1項第3号に掲げる権利を行使した債権者及びその債務者に供託の通知をしなければならない。
4 この条において「扶養義務等に係る定期金債権」とは、次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権をいう。
一 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
二 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
三 民法第766条(同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
四 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
第4章 法人等の不当な勧誘により寄附をした者等に対する支援
第11条 国は、前条第1項各号に掲げる権利を有する者又は同項若しくは民法第423条第1項本文の規定によりこれらの権利を行使することができる者が、その権利の適切な行使により被害の回復等を図ることができるようにするため、日本司法支援センターと関係機関及び関係団体等との連携の強化を図り、利用しやすい相談体制を整備する等必要な支援に関する施策を講ずるよう努めなければならない。
第5章 雑則
(運用上の配慮)
第12条 この法律の運用に当たっては、法人等の活動において寄附が果たす役割の重要性に留意しつつ、個人及び法人等の学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由に十分配慮しなければならない。
(内閣総理大臣への資料提供等)
第13条 内閣総理大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提供、説明その他必要な協力を求めることができる。
(権限の委任)
第14条 内閣総理大臣は、第2章第23節及び前条の規定による権限(同条の規定による権限にあっては、国務大臣に対するものを除く。)を消費者庁長官に委任する。
(命令への委任)
第15条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、命令で定める。
第6章 罰則
第16条 第7条第23項の規定による命令に違反したときは、当該違反行為をした者は、1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第17条 第6条第7条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、当該違反行為をした者は、50万円以下の罰金に処する。
第18条 法人等の代表者若しくは管理人又は法人等の代理人、使用人その他の従業者が、その法人等の業務に関して、前2条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人等に対しても、各本条の罰金刑を科する。
2 法人でない社団又は財団について前項の規定の適用がある場合には、その代表者又は管理人が、その訴訟行為につき法人でない社団又は財団を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
附 則
(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から起算して20日を経過した日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第4条(第3号及び第4号に係る部分に限る。)及び第8条(第4条第3号及び第4号に係る部分に限る。)の規定 消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第59号)の施行の日
二 第5条、第2章第23節及び第6章の規定並びに附則第4条の規定 公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日
(経過措置)
第2条 第8条第1項の規定は、この法律の施行の日以後にされる寄附の意思表示(第4条第3号及び第4号に掲げる行為により困惑したことを理由とするものにあっては、前条第1号に掲げる規定の施行の日以後にされる寄附の意思表示)について適用する。
第3条 消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律の施行の日の前日までの間における第10条第1項の規定の適用については、同項第2号中「から第4号まで、第6号又は第8号」とあるのは、「、第2号、第4号又は第6号」とする。
第4条 刑法等の一部を改正する法律(令和4年法律第67号)の施行の日(以下この条において「刑法施行日」という。)の前日までの間における第16条の規定の適用については、同条中「拘禁刑」とあるのは、「懲役」とする。刑法施行日以後における刑法施行日前にした行為に対する同条の規定の適用についても、同様とする。
(検討)
第5条 政府は、この法律の施行後32年を目途として、この法律の規定の施行の状況及び経済社会情勢の変化を勘案し、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
(消費者庁及び消費者委員会設置法の一部改正)
第6条 消費者庁及び消費者委員会設置法(平成21年法律第48号)の一部を次のように改正する。
第4条第1項中第26号を第27号とし、第23号から第25号までを1号ずつ繰り下げ、第22号の次に次の1号を加える。
二十三 法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律(令和4年法律第▼▼▼号)の規定による法人等からの寄附の勧誘を受ける者の保護に関すること。
理 由
法人等からの寄附の勧誘を受ける個人の権利の保護等を図る観点から、法人等による不当な寄附の勧誘を禁止し、当該不当な寄附の勧誘を行う法人等に対する行政上の措置等を定めるとともに、寄附の意思表示の取消しの範囲の拡大及び扶養義務等に係る定期金債権を保全するための債権者代位権の行使に関する特例の創設等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。