会社法の改正が令和元年(2019年)12月の臨時国会で成立しました(令和元年法律第70号)。
その改正規定がいよいよ2021年3月1日から施行されます!
令和元年会社法改正を受けての定番の教科書類の新刊・改訂については,下記記事もご参照ください。
会社法の成立と改正の履歴
会社法は平成17年(2005年)に成立した比較的新しい法律(平成17年法律第86号)です。
それまでは,商法(明治32年法律第48号)の一部分(第2編会社)として規定されていましたが,平成17年(2004年)に独立の法律となりました。
その後,平成26年(2014年)に大きな改正がありました。
平成26年会社法改正の概要は以下の通りです。
- 子会社等及び親会社等の定義の創設
- 監査等委員会設置会社制度
- 社外取締役及び社外監査役の要件
- 発行可能株式総数
- 株式買取請求に係る株式等に係る価格決定前の支払制度
- 株主名簿等の閲覧等の請求の拒絶事由
- 全部取得条項付種類株式の取得
- 特別支配株主の株式等売渡請求
- 株式の併合により端数となる株式の買取請求
- 募集株式が譲渡制限株式である場合等の総数引受契約
- 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等
- 仮装払込みによる募集株式の発行等
- 新株予約権無償割当てに関する割当通知
- 社外取締役を置いていない場合の理由の開示
- 会計監査人の選任等に関する議案の内容の決定
- 企業集団の業務の適正を確保するために必要な体制の整備
- 取締役及び監査役の責任の一部免除
- 親会社による子会社の株式等の譲渡
- 会社分割等における債権者の保護
- 組織再編等の差止請求
- 略式組織再編,簡易組織再編等における株式買取請求
- 準備金の計上に関する特則
- 株主総会等の決議の取消しの訴えの原告適格
- 株主代表訴訟の原告適格の拡大等
- 監査役の監査の範囲に関する登記
平成26年改正のあとも,会社法は細かな改正はありましたが,今回の令和元年(2019年)改正までは大きな改正はありませんでした。
最近の立法では,附則で見直し規定と呼ばれるものが入ることが多いのですが,平成26年会社法改正にも附則で下記の見直し規定が入っていました。
附則(平成26年法律第90号)
(検討)
第25条 政府は、この法律の施行後二年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。
令和元年(2019年)会社法改正は,この見直し規定を受けての改正です。法務省のウェブサイトにもその旨が明記されています。
まとめると,会社法は平成17年(2005年)に成立し,平成26年(2014年),令和元年(2019年)に大きな改正をしているということになります。
会社法の令和元年(2019年)改正の内容
令和元年(2019年)会社法改正はどんな内容の改正なのでしょうか。
その概要は以下の通りです。
- 株主総会資料の電子提供制度
- 株主提案権
- 取締役の報酬等
- 補償契約
- 役員等のために締結される保険契約
- 業務執行の社外取締役への委託
- 社外取締役の設置義務
- 社債の管理
- 株式交付
- 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解
- 議決権行使書面の閲覧等
- 会社の登記に関する見直し
- 取締役等の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備
たくさんの改正点がありますが,これらの中でも比較的重要なのは,株主総会資料の電子提供制度(インターネットを通じて株主総会資料を提供できるようになる等。企業にとっては事務費負担が軽くなることになるのでしょうか),株主提案権(株主が提案できる議案の数を制限等),取締役の報酬等(取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針を決めなければならない等),補償契約・役員等のために締結される保険契約(いわゆるD&O保険的なものの規定整備等),株式交付(他の会社を子会社化する際に株式を対価とすることができるようになった)あたりでしょうか。
株式交付は株式交換と似ていますが,株式交換は他の会社を完全子会社にする(全株式を取得する)ときにしか使えない方法ですが,株式交付は全株式取得(完全子会社化)は不要です。他の会社を子会社にするときの方法が増えたということですね。
よく似た制度ですが,使える場面に違いがあるので,会社法を学んでいる法学部生や資格試験受験生はしっかりと教科書等で確認しておきましょう。
会社法の令和元年(2019年)改正の施行日
令和元年(2019年)会社法改正の施行日は,一部を除いて2021年3月1日です。
「一部を除いて」とありますが,株主総会資料の電子提供制度と会社の登記に関する見直し(の一部)は2021年3月1日には施行されません。
これらについては,「公布の日から起算して三年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」とされており,現時点(2021年2月)ではまだ施行日が決まっていません。
このように,1つの改正で,いくつかに施行日が分かれることもありますので,注意しましょう。とくに改正内容が資格試験等の範囲に入るか否かは施行日を基準として決められることが多いので,十分に注意しましょう(各種試験の要綱等をしっかり確認しましょう)。
おまけ――改正法案から削除された“まぼろし(?)の会社法改正案”
法律の改正案というものは,一般的には政府が提出し,それがそのまま成立することがほとんどです。
いわゆる閣法と呼ばれるものです(政府提出法案)。それに対して,国会議員が提出する法案は所属する議院により名前がかわり,それぞれ衆法,参法と呼ばれます。
衆法や参法が国会で可決・成立することは少ないです。
その理由はいろいろありますが,ここでは割愛します。考えてみると面白いかもしれないですね(笑)。
会社法の令和元年(2019年)改正の法案も,閣法でした。閣法であれば,そのまま成立することがほとんどなのですが(政府提出なら与党がそのまま賛成するので),この令和元年会社法改正は衆議院で修正されました。結構レアな事態です。政府も与党も押し切れないと判断して,修正に応じたのでしょう。法務委員会では野党の山尾志桜里議員が法案の問題点を指摘していました。
では,どこが修正されたのでしょうか。
修正されたのは,株主提案権の改正部分で,その中の「不当な目的等による議案の提案の制限」という部分です。
株主提案権の濫用的な行使を制限するためにいくつかの改正を行ったのですが,上記の点について,修正前の法案には下記のような新設規定が置かれていました。
「株主が,専ら人の名誉を侵害し,人を侮辱し,若しくは困惑させ,又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で,当該議案を提出する場合」
衆議院修正前の令和元年会社法改正法案の304条2号
議案提出に上記のような目的があるか否かを第一次的に判断するのは企業,具体的には取締役会ということになると思うのですが,その点が問題視されたようです。
つまり,企業の恣意的な運用の危険があるという指摘です。もちろん訴訟になれば最終的には提案拒絶が適法であったかどうかは裁判所が判断するのだと思いますが,実体としては,まずは会社が判断して拒絶するか否かを決めるわけで,そこまで(法的判断を含む)高度の判断,それも公正な判断が会社に可能なのかという点に疑問が呈されました。
会社が拒絶したいと思うような提案には,本当に不当な提案だけでなく,まっとうな提案であっても会社にとって耳が痛いようなものもあるでしょうから,その判断を会社自身にさせるというのは制度として難しいのかもしれませんね。
また,株主提案権の濫用的な行使の事例はあまり確認されていない(多くはない)という事情も大きかったようです。
ただ,条文がなくても,不当な目的の株主提案を会社は拒絶できるか,という論点自体は残りますので,会社法のゼミに入っている法学部生や各種の資格試験受験生は一度考えてみると面白いかもしれないですね。