報道によると,最高裁判所判例集に約120か所の誤植が見つかったそうです。
マスコミ各社の報道内容の詳しさに違いがあるのですが,ネット記事を見回したところ,比較的詳細に報じていたのは産経新聞と日刊スポーツでしょうか。
概要
産経新聞の報道では,「著名な大法廷判決12件に判決文の原本と異なる誤りが約120カ所見つかった」とありました(2021年10月17日19時27分配信記事)。
産経新聞が挙げている12件は,昭和23年~平成9年に言い渡された判決のようで,古いものほど誤りの数が多いそうです。
誤りが生じた要因としては,報道では,判例集に掲載する際に判決原本からの写し間違えや見落としがあったのではないか,とされています。
古い判決原本は,いまのようにテキストデータがあるわけではないでしょうから,判例集として活字化する際に誤りが生じたのでしょう。
なお,現在でも「判決書によっては,ワープロソフトで作成された下書きに手書きで文字を加入するなどして作成される場合等もある」ようです。(民事裁判手続等 IT化研究会・資料7「各論8(訴訟の終了)」より)
平成9年までの判決ということですが,現行の民事訴訟法(平成8年法律第109号)が施行されたのが平成10年1月1日ですが,これとは無関係なのでしょうか。また,Windows95の発売が平成7年ですね。どちらもあまり関係ないかな?平成9年以降には誤りがないとすると,内部の手続きが平成9年を境にかわったのでしょうか。
それとも,現時点で判明した誤りが昭和23年~平成9年の120件というだけで,ほかの判決にもさらに誤りがある可能性があるのでしょうか。共同通信は「今回見つかった以外に誤記が見過ごされている恐れがある」としています(2021年10月17日21時1分配信記事)。
最高裁判所判例集の全体の判例掲載数は昭和22年~令和2年で約8400件だそうです。今回の報道ではじめて知りましたので,豆知識的に載せておきます。
誤りに気付いたきっかけは?
今回,この誤りに気付いたきっかけが何であったかについての報道は見つけられませんでした。内部の調査なのか,外部からの指摘なのか,気になりますが,続報を待つしかなさそうです(続報はあるのかな?)。
誤りの内容と訂正方法?
誤りの多くは,影響の小さい誤字脱字や句読点の抜けなどのようですが,一部文意が変わってしまいそうな表現の欠落があるとも報じられていました。そうすると,実務・研究・学習への影響はさらに大きくなりそうです(それが大法廷判決ならなおさら)。
誤りの訂正方法も気になりますね。
報道にある最高裁判所判例集が,もし民集と刑集のことだとすると,法学部がある大学の図書館であれば,蔵書されていると思いますが,それらは刊行当時の冊子体ではなく,製本されてしまっていることが多いと思います。
正誤表の紙を挟み込むということが思い浮かびますが,正誤表の紛失が怖いですね。
製本済みの図書館が多いとすると,誤りのあった冊子だけ差し替えるのも現実的ではなさそうです。
法曹実務・法学研究・法学学習において,最重要レベルの文献で,引用も多いですから,影響は大きいです。
民間の判例データベースには影響があるでしょうか?
検索用データにも誤り
日刊スポーツによると,裁判所ホームページの「裁判例検索」システムの検索用のデータにも誤りがあったようです(2021年10月17日19時11分配信記事〔共同〕)。
スポーツ紙があまり取り上げなさそうな分野ですが,検索用データのあやまりが「あるある」系だったので,取り上げたのでしょうか?
一例を挙げると,「法務大巨」「検祭官」「弁護入」といった誤りがあったようです。
OCRでデータ化すると生じがちな「あるある」ですね。
膨大な量の判決のチェックが必要なので気の毒と言えば気の毒ですが,この誤りが重要判決である「チャタレイ事件」や「東大ポポロ事件」で見つかってしまったようで,ちょっと目立ってしまいますね。
最高裁の調査結果など,続報があれば,また取り上げたいと思います。