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保釈中の被告人にGPS装着――法制審答申(2021年10月)

法学部

大きく報道されましたので,ご存知の方も多いと思いますが,裁判所は必要と認められる場合に保釈中の被告人にGPS装着を命令することができるとする刑事訴訟法等の改正要綱が,法制審議会から法務大臣に答申されました。

これは,法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会で検討されていたものです。

※あくまで法制審議会で要綱が作成されただけで,法案ができたわけでもないですし,改正が確実であるというわけでもないですので,その点は注意してください。これから法案を作成して,国会審議を経て,はじめて法律が改正になります。過去には法制審議会で改正要綱ができても,改正に至らなかったものもあります。

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保釈中の被告人にGPS――改正のきっかけ

検討のきっかけは,言うまでもなく,日産の元会長・カルロス・ゴーン氏の保釈中の海外逃亡です。一国の刑事司法制度すら変えさせてしまうほどのインパクトのある事件だったということです。

レバノンに逃亡後のゴーン氏は,その後も日本の当局に身柄を拘束されていませんので,一度国外に逃亡されてしまうと,身柄の確保がいかに難しいかを物語っていると思います。

要綱の概要

保釈中の被告人へのGPSの装着命令以外にも,被告人の出頭確保など,適正な公判維持のための法改正が検討されています。大きく11個の改正点が示されました。

  • 保釈中又は勾留執行停止中の被告人に対する報告命令制度の創設
  • 保釈中又は勾留執行停止中の被告人の監督者制度の創設
  • 公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設
  • 逃走罪及び加重逃走罪の主体の拡張等
  • GPS端末により保釈中の被告人の位置情報を取得・把握する制度の創設
  • 禁錮以上の実刑判決宣告後における裁量保釈の要件の明確化
  • 控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等
  • 保釈等の取消し及び保釈保証金の没取に関する規定の整備
  • 禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者に係る出国制限制度等の新設
  • 裁判の執行に関する調査手法の充実化等
  • 刑の時効の停止に関する規定の整備

保釈中の被告人へのGPSの装着命令についての法制審要綱の概要

11もの改正点がありますが,やはり一番の注目はGPS装着命令です。

改正要綱の概要はおおむね下記のようなものです。

ざっくり言うと,保釈中の被告人が逃亡を図りそうな場所(空港や港湾)近辺に入った場合やGPS端末を外したり壊したりした場合に,裁判所が信号を受信し,その後,裁判所から検察官に通知されるという仕組みです。なんらかの違反行為があった場合にのみ信号が発信されるようで,四六時中監視されるというものではないようです。

細かな端末の仕様や実務運用などはこれから検討されるのではないかと思われます。

もちろん,これまでの保釈よりも行動制限が厳しくなったとみることもできますので,国会でも議論が繰り広げられる可能性はありそうで,法案が可決するまでは慎重に見守りたいですね。

くどいですが,下記はあくまで法制審の要綱をまとめたものです(法務省のホームページに要綱の原文があるので,詳しくはそちらをご確認ください)

  • 裁判所は,保釈を認めるにあたって,被告人が国外に逃亡することを防止するため必要があると認めるときは,被告人にGPS端末の装着を命じることができる。
  • GPS端末の機能(次の場合には裁判所に通知する機能を持たせる)
    • GPS端末が所在禁止区域内に存在する場合
    • GPS端末が被告人の身体から外された場合
    • GPS端末の通信が切れた場合
    • GPS端末の通信が回復した場合
    • その他裁判所の規則で定める場合
  • 所在禁止区域空港その他の飛行場又は港湾施設の周辺の区域その他の出国する際に立ち入ることとなる区域のうち保釈された場合に被告人が裁判所の許可なく所在してはならない区域
  • GPSを装着した被告人の義務
    • 裁判所の許可なく、所在禁止区域内に所在してはならないこと。
    • GPS端末を自己の身体に装着し続けること。
    • GPS端末の破壊行為,通信遮断行為,通信妨害行為の禁止
    • バッテリーの充電等の必要な管理行為。
    • GPS端末に不具合等が生じた場合の裁判所への報告義務
  • 裁判所がGPS信号を受信した場合には検察官に通知する。
  • 装着命令の内容に違反した場合の罰則を設ける。

今後

具体的に法案化され,その法案をもとに国会審議に入ります。早ければ来年の通常国会での成立もありそうですが,保釈中の被告人への制約が大きいとみる立場からは改正に疑問が示される可能性もあります。

また,海外では,性犯罪者にGPS端末の装着を義務づけている法制度もあります。今後,日本でもそのような議論が起こる可能性はゼロではなさそうですが,実際に検討するとするならば,今回の保釈中の被告人へのGPS装着の問題よりはるかに大きな議論になるでしょうね。