法学分野では,春に教科書類の新刊や改訂版が数多く刊行されます。
(春に刊行が多いのは法学に限らないかもしれないですけれど)
法学一般の書籍については,主なものを下記記事で紹介しました。
今回は会社法の書籍についてみていきたいと思います。
2021年春の新刊・改訂版(刊行予定含む)――会社法編
会社法は令和元年(2019年)に大きな改正がありました。
その改正は,一部を除いて2021年3月1日から施行されています。
そのあたりは,下記の記事もご参照ください。
大きな法改正があった場合には,定番の教科書についてはその改正を反映した新しい版(改訂版)が刊行されます。うっかり古い版(旧版)を買ってしまわないように気を付けましょう。
教科書等を買う前に,出版社のホームページで刊行予定を確認するのがよいと思います。
令和元年会社法改正を反映した会社法のテキスト
定番書を中心に紹介していきたいと思います。
『会社法 第3版』髙橋美加・笠原武朗・久保大作・久保田安彦
いわゆる赤白本(紅白本ともいう)というやつです。
会社法界隈(?)で赤白本といえば,この本のことを指します。最近,会社法を勉強する教科書としてこの本を使っている人が増えてきています。
この本が刊行されるまでは,後掲の『リーガルクエスト会社法』がド定番でした。もちろんリーガルクエストも今なお定番ですが,リーガルクエスト1強だったところにこの赤白本が割って入ってきました。
勉強する側からすれば,定評のある教科書の選択肢が増えることはとてもよいことですね。
どうしても文体が合う(読みやすく感じる),合わない(読みにくく感じる)があるので,自分の感覚に合った本を選ぶための選択肢が増えることは望ましいことです。
本書は,定番書の中では,いちはやく令和元年会社法改正に対応しました。省令(会社法施行規則・会社計算規則)については,パブリックコメント段階で執筆してしまうといった徹底ぶりです。
改正内容が反映された教科書が早めに手元に届くというのはありがたいですよね。
『会社法 第3版』田中亘
本書は単著かつ大著ですので,教科書というより体系書といった方が適切かもしれません。
もっとも,多くの学生も使っていますので,教科書として紹介してもいいかなと思います。
会社法の単著の定番としては『株式会社法』(江頭憲治郎)〔以下,江頭会社法〕がありますが,本書が刊行されてからは,江頭会社法と本書の両方を使う実務家が増えた印象です。
それくらい実務家からも信頼されている本です。
江頭会社法と比べると,基礎的な部分からの説明が丁寧にされており,学生も読者として想定しているのではないかと思われます。
Amazonによると,令和元年会社法改正に対応した第3版は2021年3月26日に発売になるようです。
→発売になりました!
『会社法 第5版』(LEGAL QUEST)伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征
上記の赤白本のところでも書きましたが,赤白本が出るまでは,学生の中ではほぼ1強であったと言っていいほど,みんながみんな本書を使っていた印象です。
それほど初版刊行当時からわかりやすくて話題になったんですよね。
規定の制度趣旨が丁寧に説明されているんですよね。
あと,会社法になってから初版が出たというところが大きかったのかもしれませんね。デジタルネイティブならぬ会社法ネイティブの教科書なんです。それまでの本は商法時代(平成17年会社法制定前)から刊行されており,それを改訂して会社法に対応していたので,商法時代の「香り」がどうしても残っており,そのあたりがわかりにくさにつながっていたのかもしれません。
Amazonによると,令和元年会社法改正に対応した第5版は2021年3月24日に発売になるようです。
→発売になりました!
『基礎から学べる会社法 第5版』近藤光男・志谷匡史・石田眞得・釜田薫子
弘文堂の基礎から学べるシリーズの会社法ですね。
書名の通り,本当に基礎的な事項から丁寧に説き起こしています。また,本書の特徴としては,これまで本記事で紹介した本に比べてページ数が少ないという点です。
ページ数の多い本に抵抗を感じる人にはちょうどいい分量ではないかと思います。
Amazonによると,令和元年会社法改正に対応した第5版は2021年3月22日に発売になるようです。
→発売になりました!
『会社法 第2版』(有斐閣ストゥディア)中東正文・白井正和・北川徹・福島洋尚
有斐閣ストゥディアシリーズの会社法です。
上記の『基礎から学べる会社法』よりもさらにページ数は少ないです。
本書の記述は一定のストーリーを基軸にして解説を進めているので,学生には想像しづらい「会社」というものを具体性をもって解説してくれています。
学生からすると,民法や刑法などに比べて,どうしても会社法ってイメージが付きにくいんですよね。
そういった点に配慮した有難いテキストです。講義やほかの教科書ではよくわからないと困っている人におすすめです。
Amazonによると,令和元年会社法改正に対応した第2版は2021年4月1日に発売になるようです。
→発売になりました!
『手にとるようにわかる会社法入門』川井信之
弁護士の川井信之先生が書いた会社法の入門書です。
川井先生は,ツイッターやブログもやっていますので,興味があればみてみてください。
ブログでは会社法に関する情報を頻繁に発信しており,私もよく読んでおります。
本書は「手にとるようにわかる」というタイトルの通り,入門書として徹底した作りになっており,とくに図解が多いので,会社法の最初の1冊としておすすめです。
また,法律になじみがないのに,会社法を勉強しなければいけない人にもおすすめです。法律・法学の用語をあまり使っていないので,法律・法学の特有の分かりにくさが感じられない作りになっていると思います。(特有の分かりにくさって何?と聞かれるとそれもよくわかりませんが……)
ページ数は300ページ近いですが,図表がたくさんあり,文字もゆったり配置されていますので,さっくりと読み通せると思いますよ。
『株式会社法 第8版』江頭憲治郎
法改正もあったので第8版が出ると思うのですが,まだ有斐閣のホームページにはあがっていません。
でるよね,第8版……?
刊行予定があがったら更新するようにします。
有斐閣のホームページに刊行予定が上がりました。
2021年4月下旬4月22日発売のようです。
→発売になりました!
ド定番ではありますが,法学部生・法科大学院生・各種資格試験受験生にはややオーバースペックかもしれないですね。1000ページ以上ありますしね……。
第8版では1114ページになり,旧版から54ページ増えてます。
しかも今回は装丁が大幅に変更になっています。有斐閣のホームページで新しい装丁が公開されています。色が変わるだけと思っていたので,驚きましたが,新しいデザインは落ち着いた印象でなかなか良い感じの想定ですね。
実務家にとってはド定番です。
『会社法 第23版』神田秀樹
こちらも定番書籍ですね。
弘文堂の緑色のシリーズ【法律学講座双書】です(他に,金子・租税法や菅野・労働法,西田・刑法総論,刑法各論,江頭・商取引法,中山・特許法など各分野の定番書がそろっていますね)
かつては,会社法の厚い本は上記の江頭・株式会社法,薄い本は本書の神田・会社法というすみ分けがありました。ただ,会社法も改正を重ね,本書(神田・会社法)も毎年の改訂を重ねた結果,最新版では472ページと「薄い」とはいえない分量になりました。
ただ,中身の信頼性はゆるぎないものですので,安心して購入をおすすめできます。全体的には記述があっさりしているところがありますので,初学者はちょっとわかりにくいと感じることもあるかもしれませんね。
Amazonによると,第23版は2021年3月22日に発売になるようです(令和元年会社法改正は第22版で織り込まれていましたが,23版で令和元年改正に対応する最新の会社法施行規則や会社計算規則に対応したようです)。→発売になりました!
令和元年(2019年)会社法改正そのものを解説した本
これまで,会社法全体を扱った本を紹介してきましたが,これらの改訂のきっかけとなった令和元年(2019年)会社法改正そのものを解説した本もあります。
改正点だけを知りたいときには,まずはこのような本を読むことになります。
それぞれの本へのコメントは省略しますが,いくつかおすすめの本をあげておきます。