春は新刊・改訂版の刊行ラッシュ!2021年春(法学一般編)

教科書・六法
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法学分野では,春に教科書類の新刊や改訂版が数多く刊行されます。
(春に刊行が多いのは法学に限らないかもしれないですけれど)

新入生だけでなく,学年が変わると履修科目が変わるので教科書を新たにそろえなければならないですよね。

そのときに,うっかり古い版を買ってしまわないように気を付ける必要があります

とくに,大きな法改正があった場合には,その改正を反映した新しい版(改訂版)が刊行されることがあります。その改訂版が講義の教科書になっている場合に,うっかり古い版(旧版)を買ってしまうと,講義の内容と教科書の内容が合わず,その本は教科書として使えないことになってしまいます。

教科書等を買う前に,新刊や改訂版の刊行が予定されていないかを確認する癖をつけておきたいですね。出版社のホームページで刊行予定を確認するのがよいと思います。

2021年春の新刊・改訂版(刊行予定含む)――法学一般編(法学入門含む)

本記事では,法学一般の新刊・改訂版を紹介していきたいと思います。

刊行予定として出版社から案内されているものも含みます。また,昨年後半に刊行されたものもいくつか含んでいます。

法令集・辞典・事典(2021年春の新刊・改訂版)

『六法全書 令和3年版』佐伯仁志・大村敦志/編集代表

法律系・法学系の春の定期刊行物といえば,これを外せませんね。六法全書です。

もっとも,本書は学生用ではありませんし,携帯にも向きません。プロが使うものですので,法学部生や法科大学院生,各種資格試験受験生は,「勉強用」には購入不要です(もちろん趣味で購入するのは自由です)。

新収録の法令

  • 生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律
  • 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワーハラスメント指針)
  • 労働者協同組合法
  • 新型インフルエンザ等対策特別措置法
  • 国民生活安定緊急措置法
  • 地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律
  • 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律
  • 特許法による査証の手続等に関する規則
  • 家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律
  • 視聴覚的実演に関する北京条約

主な改正法令

  • 個人情報の保護に関する法律
  • 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
  • 会社法施行規則
  • 会社計算規則
  • 金融サービス提供に関する法律(旧:金融商品販売法)
  • マンションの管理の適正化の推進に関する法律
  • 著作権法
  • 種苗法
『有斐閣法律用語辞典 第5版』法令用語研究会編

有斐閣法律用語辞典の改訂版です。

同じ有斐閣から『法律学小辞典 第5版』という似た名前の辞典がありますが,小辞典は用語の学問的な意味・講学上の概念・意義等が説明されています。誤解を恐れずに言えば,教科書に載っているような説明がたくさん載っているものです。例えば,「過失」という言葉について,民事法上の意味や刑事法上の意味などが用語辞典に比べて深く解説されています。

それに対して,本書(有斐閣法律用語辞典)は,ある用語が法令の条文などで使われているときにどのような意味なのかを端的に説明しているものです。

例えば,法令の条文に「又は」「若しくは」という似た言葉が頻繁に出てきますが,この2つの使い方には一定のルールがあります。ほかにも「直ちに」「速やかに」などがありますね。

これらのように法令で使用されている用語を,(国が)どのような意味で使っているのかを解説してくれるのが本書です。

法学部生や法科大学院生,各種資格試験受験生にとって必須かと言われれば,微妙なところですので,必要性を感じたら買う,ということでもよいかと思います。後掲しますが,本書よりもハンディで必要十分な『条文の読み方 第2版』という本もありますので,まずはそちらを買い,足りなくなったら本書の購入を検討するというのがよいかもしれませんね。

『国際条約集 2021年版』岩沢雄司・植木俊哉・中谷和弘/編集代表

条約集の最新版です。収録条約数は380件です。

学習用の条約集の定番は,本書と次に紹介する『ベーシック条約集』の2つかと思います。

どちらを買うのかという問題については,資格試験等の自習用ではなく,講義用に購入するのであれば,シラバスおよび担当教員の指示に従うのがベターだと思います(収録条例が微妙に異なるので)。

『ベーシック条約集2021』浅田正彦/編集代表

条約集の最新版です。収録条約数は330件です。

収録条約数は上記の『国際条約集 2021年版』よりも少ないですが,ページ数は本書の方が約400ページも多いです。

『条文の読み方 第2版』法制執務・法令用語研究会

法令の条文における言葉遣い・ルールをコンパクトに学べる定番書の第2版です。

本書は「基礎知識編」と「法令用語編」の2部構成になっているのですが,基礎知識編をQ&A方式から通常の解説方式に変更したようです。「法令用語編」で取り上げる用語もいくつか入れ替えがあったようです。

まだ本書の初版を持っていない人はこれを機に購入することをおすすめします。とくに法学部の新入生は学習用小型六法のポケット六法デイリー六法とあわせて購入することをおすすめします。

すでに本書の初版を持っている人(とくに法学部生などの学生読者)については,本書の内容の性格上,買替え必須とまでは言えないので,刊行後に書店等で中身を見ながら検討するのがよいかと思います。

『法律版 悪魔の辞典』大西洋一

悪魔の辞典』(アンブローズ・ビアス)という有名な本がありますが,それの法律版(パロディ?)のようです。

本家のビアスの悪魔の辞典と同じように,法律用語を皮肉たっぷりのブラックユーモアで再定義するものです。

学習用ではありませんが,勉強の息抜きにこのような本を読んでみるのも面白いですよね。思わぬところから新たな視座を獲得できるかも(?)しれません。

出版社(学陽書房)の本書紹介ページで,挙げられていた内容例の一部は下記の通りです。

少し勉強が進んでから読むのがおすすめです。

【権利濫用の抗弁】
バランス感覚に法的な効力を持たせたもの。一発逆転の最終手段であり、訴訟で主張するならば、不都合を並べ立てて情に訴えるのがコツ。民法1条3項。

【事情判決の法理】
大人の事情があって、思った通りの結論を出せない裁判官のために用意された理屈。

『法律版 悪魔の辞典』大西洋一(学陽書房,2021)

法学入門(2021年春の新刊・改訂版)

『法解釈入門――「法的」に考えるための第一歩 第2版』山下純司・島田聡一郎・宍戸常寿

法解釈の基本的事項を憲法,民法,刑法を題材にして解説するものです。

本書の初版が出るまでは「法解釈」そのものを扱う本はあることにはあったのですが,およそ初学者が読みこなせるレベルのものではないものがほとんどでした。本書は初学者でも典型的な論点を題材に法解釈の手法を丁寧に解説してくれていますので,初版の刊行当時は話題になりました。

今回第2版では,「動機の錯誤」を書き下ろしたとのことです。錯誤および動機の錯誤については,債権法改正で改正があったところですね。

『法律の学び方――シッシー&ワッシーと開く法学の扉』青木人志

本書の著者・青木人志先生の『判例の読み方――シッシー&ワッシーと学ぶ』の姉妹本です。

上記『判例の読み方』と同様,シッシーとワッシーという有斐閣の社章からうまれたキャラクターを使って,会話調の記述をはさみながら,法律の学び方について,わかりやすく解説しています。

とくに法学部新入生で,入学前に抱いていた法学のイメージ(弁護士ドラマのように紛争をばりばり解決していくようなイメージ)と大学の講義内容とのギャップに苦しみ,モチベーションが下がっている人や高校までの勉強と違い過ぎて,どう勉強していいかまったくわからないという人はまず本書を読んでみるといいかもしれません。

通学途中の電車の中でサクッと読めてしまうと思います。

『法学を学ぶのはなぜ?――気づいたら法学部,にならないための法学入門』森田果

「法律」ではなく,「法学」ってなんだろうと思ったら本書を手に取ってみてください。

本書は「インセンティブ」を軸にして法学を解説していきます。本書の中で取り上げられる例もおもしろいものが多いので,飽きることなく読み進めることができると思います。

「法学」入門はこれまでもたくさんの本が刊行されてきましたが,結構難しいもの(高尚な内容なもの)が多いんですよね。大家と呼ばれるような研究者がその研究生活の集大成として刊行することも多かったので,難しくなりがちなんです。刊行が古くなればなるほど難しいものが多い印象です。

その点,本書は高校生にも向けて書かれているということもあって,とても読みやすい内容です。本書を読んだからといって,憲法や民法など各法の講義の単位が取れるほど理解が深まるという性格の本ではもちろんありませんが,法学入門を1冊読んでおくと,今後の勉強にジワジワと効いてくると思いますよ

本書タイトルの英訳が「Introduction to Legal Studies : What are the pros and cons of studying law at universities? Do not enter universities without any thinking!」となっているのも面白いですね。日本語のタイトルより過激に感じるのは私だけでしょうか(笑)

森田先生の本文だけでなく,寄稿された多くのエッセーも興味深い内容ばかりです。

おすすめの法学入門については,下記記事にまとめてありますので,ご参照ください。