AIと弁護士法?

法学部
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いろんな分野でAI技術が活用されるようになって久しいですが,法律分野でもAI技術が進化してきており,契約書の一時的なレビュー程度ならAIでもかなりの精度でできるようになってきたようです。

リーガルテックとも呼ばれる分野ですが,この分野について気になるニュースがありました。

AIによる契約書レビューが弁護士法に違反するのではないか,という点について法務省の見解が公表されました(令和4年6月6日回答)。弁護士法は法務省管轄の法令です。

なぜ法務省が見解を公表するのか

なぜ裁判所でもなく,また具体的な紛争や立件があったわけでもないのに,法務省がこのような法的見解を公表したのでしょうか。

これは,「グレーゾーン解消制度」と呼ばれるもので,根拠法令は産業競争力強化法7条にあります。

新規事業を興す際に,まだ誰もやったことがないビジネスモデルだとさまざまな法規制との兼ね合いが不明確であることが多く,それが委縮効果を引き起こすことがあります。その委縮効果の緩和のために設けられたのがこの「グレーゾーン解消制度」です。事前に法規制との兼ね合いを確認したうえで,できるだけ安心して新規事業を開始するためのものです。

産業競争力強化法(平成25年法律第98号)

 (解釈及び適用の確認)
第7条
 新技術等実証又は新事業活動を実施しようとする者は,主務省令で定めるところにより,主務大臣に対し,その実施しようとする新技術等実証又は新事業活動及びこれに関連する事業活動(以下この項及び第14条において「新事業活動等」という。)に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令(告示を含む。以下この節及び第147条第1項において同じ。)の規定の解釈並びに当該新技術等実証又は新事業活動等に対するこれらの規定の適用の有無について,その確認を求めることができる。
2 前項の規定による求めを受けた主務大臣は,遅滞なく,当該求めをした者に理由を付して回答するとともに,その回答の内容を公表するものとする。

回答の対照となった新規事業

詳しくは,法務省の回答(令和4年6月6日)の原文を確認してほしいのですが,今回法務省に問い合わせがあった新規事業の概略は以下の通りです。

  • 有料のAI契約審査サービス
  • サービス利用者が契約書をアプリケーションにアップロードし,その契約書をAI技術により審査し,契約内容の有利不利,リスクや修正点などをサービス利用者に回答する。

この新規事業が弁護士法72条本文に違反するか否かについて,グレーゾーン解消制度に基づく法務省への問い合わせがあったということです。

弁護士法(昭和24年法律第205号)

 (非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い,又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし,この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は,この限りでない。

回答内容――契約書のAI審査は弁護士法に違反するのか?

法務省回答は以下の通りです。

本件サービスは,弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性がある

法務省「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」(令和4年6月6日)

結論としては,違法の可能性あり,というものでした。

あくまで違法と「評価される可能性がある」という慎重な言い回しですが,すでにAI契約審査サービスが日本でもビジネスとして行われているため,そのようなサービスを行っている事業者には衝撃をもって受け止められたのではないでしょうか。

実際に,そのようなサービスを提供している事業者は,少なくとも自社サービスは違法ではなく,上記法務省回答は自社サービスには影響しないというプレスリリースをすぐに出しています。

法務省がそのように回答するのであれば,適法違法の線引きが明確になるような法改正が望まれますね。

回答内容はA4で2枚(2枚目は3行だけ)しかないので,詳しくは必ず原文を確認してください。

話はすこしズレますが,日本の司法・法律事務は基本的には日本語を用いています。
日本語を使いこなせない外国の法律家・弁護士にとっては(資格関係の規制はさておき)「日本語」が事実上の参入障壁になっているのかなと個人的には思っていますが,AIにとっては日本語も英語も関係ない(もちろん開発コストはだいぶ異なると思いますが)ようなイメージですので,リーガルテック産業で出遅れてしまうと一気に外資にやられてしまう可能性もあるのでしょうか。政府としても国内リーガルテック企業の後押しが必要かもしれませんね。素人の感想ですが。