全国紙での報道もあったので,ご存知の方も多いと思いますが,いわゆる「村八分」の扱いを受けた男性(原告)による(集落の)元区長らへの損害賠償請求を認める判決が下されました(大分地裁中津支部)。
「村八分」っていまいち「ぴんとこない」人も多いと思います。
本記事では,「村八分」と裁判所の判断について,見ていきたいと思います。
「村八分」ってなに?
「村八分」って違法なの?
大分県宇佐市「村八分」訴訟(大分地裁中津支部令和3年5月25日判決)
訴訟の概要
大分県宇佐市にUターンした男性(原告)が集落の住民から「村八分」の扱いを受け,人権を侵害されたとして,元区長ら3人と市に対して慰謝料などの損害賠償を求めた訴訟で,2021年(令和3年)5月25日,大分地裁中津支部は,元区長らの行為が「村八分」にあたると認定し,原告の訴えを認め,元区長らに損害賠償の支払いを認める判決を下しました。宇佐市については,区長は市の指揮監督下にはないため,使用者責任は認められないとして,原告の訴えを退けました。
本件訴訟の「村八分」にあたる行為ってなに?
判決原文を確認できていないので,報道された内容ですが,下記の通りです。
きっかけと思われる出来事
農家に交付される公的な補助金(農地や水路整備のため)の配布について,原告男性に配分がないことについて疑問を持ち,市などに問い合わせたところ,自治会役員らとの関係が悪化した。
「村八分」の具体的内容
自治区は,原告男性の住民票が兵庫県にあることを理由に自治区への加入を拒み,断交することを全員一致で決議した。その後,原告男性への市の広報誌の配布や行事の連絡は行われなくなった。
住民票を宇佐市に移した後も,自治区側は「全員の賛同が得られない」として,自治区への加入を拒み続けた。
大分県弁護士会の勧告
訴訟に至る前に,原告男性は,大分県弁護士会に人権救済を申し立てました。
大分県弁護士会は自治区に照会などをしたようですが,自治区の姿勢に変化はなかったため,同弁護士会から自治区に対して,原告男性に対する上記のような扱いは「村八分」であり,人権侵害にあたるとして,自治区に対して是正勧告を行いました(2017年11月)。
大分地裁中津支部令和3年5月25日判決の概要
(判決原文を確認できていないので,報道された内容です)
自治区への加入要件
住民票の有無は問われていない。
断行決議
男性の言い分を聞くことなく,一方的に決議されたものである。
元区長らの原告男性への行為
平穏に生活する人格権,人格的利益を侵害するものであり,社会通念上許される範囲を超えた「村八分」である。
市の責任
区長らは市が任命するものではなく,市の指揮監督下にもないとして,市の責任は否定した。
本件訴訟のその後
2021年6月8日の報道によると,被告側(元区長ら)は控訴を断念したそうです。
そもそも「村八分」ってなに?
「村八分」は,大雑把にいえば,共同生活を営む一定の団体において,特定の者を相互協力関係から除外すること(共同絶交)です。
村八分の語源は,よく言われるところでは,葬式と火事(2分)以外は交流しない(残り8分については一切のかかわりを持たない)ので,「村八分」と言うようになったというものです。葬式は公衆衛生的な観点や死者は平等に弔うといった思想の現れ,火事は延焼防止のため,と言われています。
これに対して,「はぶく」や「はじく」がなまって,「村八分」になったという説もあります。
学術研究もあるところですので,詳しくはそれらの業績を参照してみてください。
「村八分」は違法なの?
「村八分」は違法なのでしょうか。
過去にも裁判例がありますので,(網羅的な紹介はできませんが)いくつか取り上げてみたいと思います。
刑事責任
「村八分」は脅迫罪に該当する場合があるとする裁判例があります。
大審院昭和3年8月3日判決・大審院刑事判例集7巻533頁
所謂村八分同様ノ害悪ヲ加フヘキコトヲ示シ之ヲ畏怖セシメ又ハ脅迫シタルモノナレハ正当ノ理由ナク些少ノ事由ニ依リ人格ヲ蔑如シ名誉ヲ毀損スヘキ害悪ノ通告ヲ為シタルモノト謂フヘク従テ……脅迫罪ヲ構成スルコト論ヲ俟タス
大審院昭和9年3月5日判決・大審院刑事判例集13巻213頁
所謂「村八分」ト為スヘキ旨決議スルカ如キハ該特定人ノ人格ヲ蔑視シ共同生活ニ適セサル一種ノ劣等者ヲ以テ待遇セントスルモノナレハ個人ノ享有する名誉ヲ侵害スル結果ヲ生スヘキモノナルヲ以テ右決議カ名誉毀損ノ結果ヲ生スルハ勿論又右決議ヲ通告スルハ将来引続キ相手方ニ対シ不名誉ノ待遇ヲ為サントスル害悪ノ告知セルモノニ外ナラスシテ相手方ヲ畏怖セシムルニ足ルヲ以テ脅迫罪ノ成立ヲ認ムヘキコト亦勿論ナリトス
最高裁昭和33年7月3日決定・判例時報154号5頁
この最高裁決定は上告棄却なので,判決文には実質的な内容が書かれていません。よって,下記に掲げるのは,控訴審の大阪高裁昭和32年9月13日判決・高等裁判所刑事判例集10巻7号602頁からの引用です。
いわゆる村八分の決定をし,これを通告することは,それらの者をその集団社会における協同生活圏内から除外して孤立させ,それらの者のその圏内において亨有する,他人と交際することについての自由とこれに伴う名誉とを阻害することの害悪を告知することに外ならないのであつて,それらの者に集団社会の平和を乱し,これに適応しない背徳不正不法等があつて,この通告に社会通念上正当視される理由があるときは格別しからざる限り,刑法第222条所定の脅追罪の成立を免れない
また,この大阪高裁判決では,集落の住人の人数の多寡,地域の広狭によって,村八分の脅迫罪成立は左右されないこと,また,集落の住人が共同して行う村八分の通告は暴力行為等処罰に関する法律1条1項の「数人共同シテ刑法(明治40年法律第45号)……第222条……ノ罪ヲ犯シタル」場合に該当することも判示しています(刑法222条=脅迫罪)。
民事責任
「村八分」は不法行為(共同不法行為)に該当するとする裁判例があります。
冒頭で紹介した大分地裁中津支部判決も同じですね。今回が初めての判決ではなかったのですが,大分県弁護士会から是正勧告が出ていたことや都市化・過疎化や核家族化などによって,「地域での共同生活」に対する社会意識の変化によって過去のものとなったと思われていた「村八分」が,現代の日本においても存在することに物珍しさもあって,センセーショナルに報道されたのだと思われます。
岡山地裁昭和53年11月13日判決・判例時報933号124頁
一般に,村落共同体におけるいわゆる村八分と呼ばれる共同絶交が,多くの場合その対象とされる者の名誉の毀損またはその人格権・自由権の侵害となり,民法上の不法行為を構成することは広く肯認されているところである。しかし,不法行為の要件をなす違法性の存否については,もとより実質的な評価・判断がなされるべきであり,共同絶交についても,その原因や絶交の範囲・態様・程度等を離れて論ずることはできないと解される。
村八分が共同不法行為になるかどうかは,「その原因や絶交の範囲・態様・程度等」を検討する必要があるとしています。そのうえで,事実関係を検討し,下記の通り損害賠償を否定しています。
いわゆる共同絶交の一場合にあたるとしても,敢て被告らの所為のみを採り上げて共同不法行為とし,被告らに金銭賠償を命ずべきほどの違法性があるとは認め難い。原,被告らのこのような関係が今後早期に修復されることが望ましいのは勿論であるが,事柄は法的規制の範囲外にあるというべく,結局は当事者の自律にまつのが相当と言うほかはない。
民事上違法というほどの「仲間外れ」ではないので,当事者間でよく話し合ってね,ということでしょうね。
津地裁平成11年2月25日判決・判例タイムズ1004号188頁
原告は……いわゆる村八分(葬式・火事以外の完全没交渉)ではないにしても,仲間外れの状態にあったと認められる。
(中略)
被告ら……は、平成8年10月以来原告……を執拗に糾弾し,平成8年11月17日には他の住民と共同して原告に対する絶交宣言を行い,さらに原告の妹弟や娘を呼んで地区住民に対し謝罪するよう要求していたのであるから,被告ら……の右行為は,社会通念上許容される範囲を超えた「いじめ」ないし「嫌がらせ」と言わざるを得ない……。
(中略)
被告らは,いわゆる部分社会の法理の適用を主張するようであるが,本件で争点となっているのは,人格権侵害という一般市民法秩序に関する問題であって,地域の自治に任すべき内部的問題ではないから,司法権に服すべき事項と解される。被告らの右主張は採用することができない。
(中略)
全員集会方式は……地区が問題解決の方式として長年培ってきた伝統であり,高齢過疎地としての地域の特性であるから,他からこれを評すべき問題ではないと主張する。確かに,住民全員が会合に参加して話合いを行うこと自体は,高齢過疎地における問題解決方法の一つとして十分尊重すべきものであるが,このような話合いにおいてであっても,限度を超えた「いじめ」や「嫌がらせ」が行われてはならないことは当然の理であり,右主張をもって,被告らの不法行為責任を否定することはできない。
本判決は,部分社会の法理や地域の自治・伝統と村八分との関係についても言及しています。今後,高齢社会化が一層進むと似たような事案が増えるかもしれないなあと感じましたので,少し長めに引用しました。
自分たちの地域のルールだから,とか,伝統だから,とかそういった理由であっても,他人の権利侵害が正当化されるわけではなく,社会通念上許されないものは当然に不法行為となることを明確にしています。
新潟地裁新発田支部平成19年2月27日判決・判例タイムズ1247号248頁
被告らが原告らに対しなした……行為は,これをもって村八分行為と呼ぶかどうかはともかく,違法であり,原告らに対する不法行為を構成する。なお,被告らは,……集落における総会の決議を執行しているにすぎない旨主張しているが,たとえ総会の決議に基づくとしても,上記のような不法行為をすることが許されず,かかる行為をした被告らが責任を免れない……。
そして,被告らが村の2度にわたる勧告にも従わなかった上,本人尋問において,被告Aが……[村八分の内容を記した]文書の記載事項の効力がこれからもずっと生きていくと思う旨明言し,被告Bが村の勧告に従うつもりはない旨明言していることなどに照らせば,被告らが今後も同様の行為に及ぶおそれは高いものと認められる。
したがって,原告らの人格権としての権利ないし利益の侵害を未然に防止するため,……差止めを求める原告らの請求は理由がある。
本件は,村八分に対する損害賠償請求だけでなく,村八分の差止請求も認められています。
判決主文では「ごみ捨場の使用を禁止したり,山菜やきのこを取るために睦月集落の入会地へ入山することを禁止したり,……村や地域農業協同組合からの広報紙や回覧板を回さなかったり,……集落開発センターの利用を禁止したり,……集落の他の構成員に同様の行為を強制ないし慫慂してはならない。」として,村八分の差止めを認めています。
大阪高裁平成25年8月29日判決・判例時報2220号43頁
大都市やその近郊の住宅地等と異なり,……隣保内の日常の近所付き合いや日常生活における互助関係は,各世帯の日常生活上,極めて重要なものであったにも拘わらず,平成22年8月頃には,……隣保内の者が被控訴人らとの付き合いをしなくなり,被控訴人らを無視したり,仲間外れにしたり,被控訴人らを誹謗中傷する書面が配られるなどするようになり,更に,平成23年5月頃,本件通知書が被控訴人太郎方に送付されたものである。そして,本件通知書[共同絶交宣言ないし村八分をする旨の通知書]は,その内容からも,それまでの被控訴人らに対する行為と一連のものであることは明白であり,被控訴人らに,いわゆる村八分ないし共同絶交を宣言したもので,これらの一連の行為は,社会通念上許される範囲を超えた被控訴人らの人格権を侵害する違法行為であって,不法行為であることは明白である。
まとめ
上記で掲げたものだけでなく,まだほかにも「村八分」に関する裁判例はあります。
比較的最近の裁判例もあります。
昔も地域内の交流についての個々人の考えや思いはさまざまであったと思われますが,今よりも生活を営む上で共同生活や相互協力の重要性が高かったため,折り合いをつけていたのだと思いますが,現在においては,住民の流動化や地域社会や共同生活に対する社会的な意識の変化もあり,トラブルにつながることが増えたのでしょうか。
高齢社会化が進み,定年後にUターンする人もますます増えてくるでしょう。そのときに元の住民とのあつれきやトラブルの件数も増えてくると思います。
上記で裁判例を紹介しましたが,和解ならともかく,判決までいってしまうと,金銭的な賠償は得られても,判決をもってすぐにあつれきが解消されることはないでしょう。
そうならないように,行政のサポートなどが充実してくるとよいですね。
トラブルが増えるとUターンしようと思う人が減ってしまいます。それは地方自治体にとっても避けたいところでしょうから,予算をしっかり割いてサポート事業を展開してほしいですね。