大学3年生(3回生)になると就職活動も気になってきますよね。
また同時に,法学部生であれば法律系の専門科目の履修も増えてくるころだと思います。
現在は明確な「必修科目」を設けている大学はあまり多くなく,ある一定の科目群から必要な単位数を履修する「選択必修」的な括りでカリキュラムを構成している大学が多いと思います。
履修科目の選択の範囲が広いのはいいのですが,迷ってしまいますよね。
そこで,1つの視点として,就職志望業界という視点で履修科目を見ていきたいと思います。
今回は金融業界です。
(また別の業界も順次紹介していければと思います)
法学部の履修科目と就職活動
法学部出身だから必ず法務系の部署に配属されるということはないです。
むしろ法務系の部署は少数精鋭であることが多いので,ほかの部署に配属になることがほとんどだと思います。
ですので,就職活動との関係では,法律専門科目で学んだ知識を就職先で直接的に活用する,というよりは
- 業界を知るきっかけとして
- 業界を取り巻く制度や法規・ルールを知る
- 法改正の流れをおさえることで業界の流れやトレンドを知る
- 業界で生じている法的な紛争類型を知る
というイメージになると思います。
法律専門科目の履修を通じてその業界に興味を持ったというのは,その業界を志望するきっかけとして十分にエントリーシートに記入できるものだと思いますよ。
ただし,しっかりとエントリーシートへの記述内容に「肉付け」は必要ですが。
金融業界を目指す人におすすめの履修科目
法学部生で金融業界を目指す人は結構多いと思います。
金融業界を目指すときにどんな法律専門科目を履修するのがよいのでしょうか。
金融業界を目指す人におすすめの履修科目はこちら!
民法(民法総則,担保物権,債権総論,契約,相続)
手形・小切手法 or 有価証券法
会社法
金融商品取引法
(法律科目ではないが)会計学や金融論
民法
民法はやはり外せません。
市民社会の基本ルール,私法の一般法ですからね。
民法の理解が不十分では,ほかの私法の特別法の理解はおぼつきません。
そのなかでも金融業界を目指す人には,以下の分野を重点的に履修することをおすすめします。
- 民法総則
- 担保物権
- 債権法(債権総論・契約)
- 相続
民法総則
意思表示や時効など,超重要事項が含まれる分野です。
金融業界にとっても重要ですが,法学部生なら履修必須の科目です。
民法総則の理解が怪しいと他の科目の理解も厳しくなることがありえますので,しっかりと学びましょう。
担保物権
金融=資金の融通ですよね。
お金を貸して,返済時に利息をつけて返してもらうことで儲けています。
もちろん他の方法でも利益を得ていますが,いまでも大きな収益の柱です。
ただ,貸出先の中には何らかの事情で返せなくなってしまう人・会社も出てきます。
そういうリスクに備えて,銀行などが資金を貸し出す際には担保の提供を求めることがほとんどです。
担保として提供されるものの多くは不動産です。
その不動産に対する担保権,つまり担保物権について規定しているのが民法の担保物権です。
この「担保」という考え方は金融業界にとって非常に重要ですので,民法の担保物権を学んで,担保の基礎を習得しましょう。
大学によって,担保物権のみで一つの講義,物権と担保物権をあわせて一つの講義,債権総論と担保物権で一つの講義,といったバリエーションがあります。
債権法(債権総論・契約)
上記のお金の貸し借りの例でいえば,貸した方には貸金の返還を求める権利の債権が生じ,借りた方には貸金を返還する義務の債務が生じます。
この債権・債務の関係や債務が履行されなかった場合(上記の例では貸金が返還されなかった場合)にどうなるのか,といったところを学ぶのが債権法です。
債権総論では,債権・債務の一般的なルールを,契約では契約類型(売買契約や委任契約など)ごとのルールを学びます。
上記のお金の貸し借りは,契約でいうところの消費貸借契約(しょうひたいしゃくけいやく)という契約類型です。
講義としては,「債権総論」「契約」と一つずつの場合もあれば,「債権総論」「債権各論(契約・事務管理・不当利得・不法行為)」となっている場合や,「債権総論と担保物権」となっている場合もあるようです。
相続
民法の第5編には相続についての規定があります。
金融業界なのになぜ家族間の問題である相続が重要なのか,と疑問を持った人もいるかもしれません。
地方銀行や信用金庫などでは,個人の資産管理や相続についてのコンサルティングも重要な業務です。
また,中小企業における承継,つまり後継ぎ問題も,近年注目を集めています。
相続人が一人であればあまり問題はないのですが,兄弟姉妹がいる場合に,被相続人(親)がやっていた会社の株式が分散して相続されてしまった場合には,会社の意思決定が困難になったり,企業の存続が危うくなったりします。
また逆に株式すべてを兄弟姉妹の一人に相続させる代わりに,その他の財産(預金や不動産,その他有価証券など)を他の兄弟姉妹が相続することもありますが,会社の経営状態が悪いような場合には,株式を相続した後継ぎが実質的には損をしてしまうようなこともあり得ます。
地方銀行や信用金庫などは中小企業が顧客の中心ですし,その企業の存続が危うくなる事態は避けたいわけです。
そこで,相続に関して,事前に現在の経営者や後継ぎ候補を含む相続人と今後について相談を受け付ける業務を行っています。
民法の相続の履修をおすすめするのは以上のような理由です。
科目としては,「相続」だけで一つの場合もあれば,「親族・相続」,「家族法(親族・相続)」として親族法とセットになっている場合も多いと思います。
手形・小切手法(有価証券法)
いまではかなり流通量が減りましたが,中小企業では約束手形を使っているところもあります。
約束手形とは?を説明しだすと長くなるので,省きますが,手形法は有価証券に関するルールの基本を定めていますので,学んでおいて損はありません。
また,現在ではいろいろなものが証券化されて,市場で売買されています。
金融業界,とくに証券会社系を志望するのであれば,履修をおすすめします。
会社法
銀行や信託銀行などは,会社経営に対するコンサルティングや助言も重要な業務の一つです。
信託銀行では,株主総会対応などの法務についてのコンサルティングにも注力しています。
中小企業では,なかなか内部の人員では対応しきれない事項も多いので,そこを手助けしているようです(会社法も数年に一度改正がありますから,少ない内部人員だけで対応するのも限界がありますよね)
また,証券会社では当然株式を取り扱いますし,新株予約権やTOB,M&Aなどに関する知識も必要です。
金融業界は企業のドクター的な役割も担っていますので,企業そのものの仕組みやルール,つまり会社法を知ることは重要です。
金融商品取引法
金融商品取引法は,基本科目ではなく上級の講義や特別講義といった形で講義が置かれていることが多いと思います。
かなり専門的な科目で細かなことまで扱うからだと思います。
もっとも,証券会社系を志望する場合には,日常業務に直結する法律でもありますので,学生のうちに学んでおくことは,将来の同期にアドバンテージを得ることにもなりますので,おすすめです。
(法律科目ではないが)会計学や金融論
もし,一般教養や他学部の交換単位などで,会計学や金融論が選択できるのであれば,履修をおすすめします。
とくに会計は基本だけでも学んでおくとよいと思います。
会社法でも計算の分野で少し学びますが,会計も学んでおくとよいでしょう。
というのも,金融業界に入ると企業の財務諸表を日常的に目にすることになると思いますので,「読み方すらわからない」では入社直後に苦労してしまう可能性がありますので,入門段階くらいはおさえておきたいですね。
金融業界を目指す人におすすめの履修科目のまとめ
金融業界に就職後に,上記で紹介した科目で学んだ知識を縦横無尽に駆使して活躍する,というのはあまり多くないと思います。
冒頭でも書いた通り,法務系に配属になる人がそもそも少ないからです。
とはいえ,上記科目を学ぶことで,業界を知るきっかけ,法学の視点からの業界研究,法改正の流れをおさえることで業界の流れやトレンドを知る,といったメリットもあると思います。
上記科目の履修は必須ではないですし,一個人の独断から選んだだけですが,履修科目の選択に迷っている人がいれば,一つの参考にしてみてください。