今日は小ネタです。
先日の記事でCoinhive事件最高裁判決を取り上げましたが,その2日前に,法学部生や司法試験受験生・資格試験受験生なら押さえておきたい最高裁判例が出ていました。
さほど大きく取り上げられることはなかったようですが,一部マスコミも取り上げていました。
どんな判例?
最高裁判所第三小法廷令和4年1月18日判決(令和2(受)1518)は下記のような判断を示しました。
不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金は,民法405条の適用又は類推適用により元本に組み入れることはできない。
民法405条
(利息の元本への組入れ) 第四百五条 利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。
民法(明治29年法律第89号)
(利息の元本への組入れ)
第405条 利息の支払が1年分以上延滞した場合において,債権者が催告をしても,債務者がその利息を支払わないときは,債権者は,これを元本に組み入れることができる。
法定重利を定めた規定ですね。
重利は複利とも呼ばれますが,弁済期が到来した利息を元本に組み入れ,組み入れた利息部分にも利息を付すことを指します。
借金などが雪だるま式に増える,という表現を聞いたことがあると思いますが,これは重利(複利)を比喩的に表したものですね。
要件としては,①利息支払を1年以上延滞していること,②債権者が催告してもなお利息を支払わないことです。
もちろんあらかじめ契約で(特約で)利息を元本に組み入れることを定めることも可能です。民法405条はそのような特約がない場合に,利息を元本に組み入れる方法を定めたものです。
民法405条の趣旨について,本判決(最高裁判所第三小法廷令和4年1月18日判決(令和2(受)1518))は下記の通り判示しています。
「債務者において著しく利息の支払を延滞しているにもかかわらず,その延滞利息に対して利息を付すことができないとすれば,債権者は,利息を使用することができないため少なからぬ損害を受けることになることから,利息の支払の延滞に対して特に債権者の保護を図る趣旨に出たものと解される」
最高裁判所第三小法廷令和4年1月18日判決(令和2(受)1518)
遅延損害金と民法405条
金銭債務
金銭債務の遅延損害金(遅延利息)については,本条の適用がある(大審院昭和17年2月4日判決(昭和16年(オ)第653号)・民集21巻107頁)。
不法行為に基づく損害賠償債務(本判決)
「不法行為に基づく損害賠償債務は,貸金債務とは異なり,債務者にとって履行すべき債務の額が定かではないことが少なくないから,債務者がその履行遅滞により生ずる遅延損害金を支払わなかったからといって,一概に債務者を責めることはできない。また,不法行為に基づく損害賠償債務については,何らの催告を要することなく不法行為の時から遅延損害金が発生すると解されており(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),上記遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい。そうすると,不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金については,民法405条の上記趣旨は妥当しない」
最高裁判所第三小法廷令和4年1月18日判決(令和2(受)1518)
本判決(最高裁判所第三小法廷令和4年1月18日判決(令和2(受)1518))は不法行為に基づく損害賠償債務と通常の金銭債務との違いを示し,後者に比べて前者は,「遅延損害金の元本への組入れを認めてまで債権者の保護を図る必要性も乏しい」として,民法405条の適用又は類推適用することはできないと示しました。
さいごに
択一試験(短答式試験)に出そうな判例ですね。
少なくとも結論部分は把握しておきたいです。