国家資格は多くの場合,受験資格を特段設けていません。
(もちろん,なかには受験資格が設けられているものもあるので,受験要綱はしっかりと読み込みましょう)
法学部生ならなぜ受験資格が設けられていないことが多いのかを考えてみるのも面白いと思いますよ。
(“国家”資格というところがポイントでしょうね。憲法を思い出してみましょう)
ですので,受験資格が設けられていなければ,法学部生であろうがなかろうがどんな資格も自由に目指すことはもちろん可能ではありますが,もし目指す資格試験の範囲に法学部で学ぶことが試験科目に入っているならその科目については他の学部生よりも有利になる可能性が高いのですよね。
今回はそういった視点から国家資格のいくつかを紹介したいと思います。
各試験の詳細については,必ず公式ウェブサイトでも確認するようにしてください。
受験資格や免除の要件など,細かな条件もありますので,最新の受験要綱を必ず確認しましょう。
またコロナウイルスの影響で試験日程その他にも影響がでています。
公式ウェブサイトで最新情報を常に確認するようにしましょう。
どんな国家資格があるの?
- 司法試験
- 司法書士
- 公認会計士
- 弁理士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 宅地建物取引士
- 行政書士
- 通関士
- 中小企業診断士
- 不動産鑑定士
各資格試験の難易度は?
司法試験は言わずもがなですね。
法科大学院がスタートし,新司法試験になったとはいえ,やはり最難関でしょう。
単純に合格率だけなら司法試験よりも低い合格率の試験もあるかもしれませんが,試験範囲や出題内容,難易度を考慮すると最難関であることは間違いないのではないでしょうか。
司法試験は受験資格が必要です(原則として,法科大学院の卒業が必要)。
もっとも司法試験予備試験に合格すれば,法科大学院の卒業要件は免除されます。
司法書士,公認会計士,弁理士もはっきり言って難関です。
もし目指す場合にはしっかりと情報収集をして,合格に必要な知識を無駄なく習得するための方法をしっかりと見極めましょう。
もし経済的に可能なのであれば予備校等に通うのもありだと思います。
いずれの試験も短答式試験と論文式試験の両方があります。
また,不動産鑑定士も不動産系の資格のトップレベルの難しさですので,法律科目以外にどう対応するかが合格のカギになるでしょう(逆にいえば,法学部生は法律科目をいかに効率よく勉強するかが重要になります)
各試験の範囲と法学部の講義
法学部の講義と各試験の科目との関係はとおりです。
太字が多くの法学部にある講義科目です。
司法試験
どんな仕事?
司法試験に合格すると,司法修習(と2回試験)を経たのち,法曹になることができます。
法曹は裁判官,検察官,弁護士です。
これらについては,映画,ドラマ,小説でおなじみですので,説明不要ですね。
弁護士資格保有者は下記で紹介する各種資格試験で一定の免除を受けられることも多いです。
ちなみに,日本の裁判官は木槌を使いませんよ(裁判所にそもそも木槌がないです)。
どんな試験?
司法試験予備試験
短答式試験と論文式試験です。
短答式試験の試験範囲は以下の通りです。
憲法,行政法,民法,商法〔会社法含む〕,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法,一般教養科目
論文式試験の試験範囲は以下の通りです。
憲法,行政法,民法,商法〔会社法含む〕,民事訴訟法,刑法,刑事訴訟法,一般教養科目,法律実務基礎科目
予備試験はさらにと口述式試験があります。
司法試験
短答式試験と論文式試験です。
短答式試験の試験範囲は以下の通りです。
憲法,民法,刑法
論文式試験の試験範囲は以下の通りです。
公法系(憲法,行政法)
民事系(民法,商法〔会社法含む〕,民事訴訟法)
刑事系(刑法,刑事訴訟法)
選択科目(倒産法,租税法,経済法,知的財産法,労働法,環境法,国際関係法(公法系),国際関係法(私法系))
予備試験,司法試験ともに法学部の基本科目のオールスターですね。
両試験の科目がほとんど同じのため,予備試験合格者の司法試験合格率が他の法科大学院を抜いて断トツトップなのも当然なのかもしれませんね。
司法試験を目指すのであれば,予備校に通うにしても通わないにしても,目の前にある法学部の講義を一つも無駄にすることなく貪欲に学びましょう。
分からないことがあれば,担当教員に質問できるのは学生の特権でもあります。
長くかかる質問であれば,メールで質問するなり,オフィスアワーでアポイントメントをとったりする必要はあるかもしれませんが,質問の機会やオフィスアワーなどは有効にどんどん活用しましょう。
司法書士
どんな仕事?
法務局や裁判所に提出するの書類の作成や登記関係の代理業務が主なお仕事です。
また,法務大臣から認定を受けた認定司法書士であれば,簡裁訴訟代理等関係業務を行うことができます。原則としては訴訟代理は弁護士に限られていますが,例外的に認定司法書士は簡易裁判所における請求額140万円以下の案件であれば訴訟の代理をすることができます。
どんな試験?
短答式試験と論文式試験です。
短答式試験の試験範囲は以下の通りです。
憲法,民法,刑法,商法,不動産登記法,商業登記法,民事訴訟法,民事執行法,民事保全法,供託法,司法書士法
論文式試験(記述式)の試験範囲は以下の通りです。
不動産登記法,商業登記法
ほとんどの科目が法学部の講義に用意されていると思います(講義がないのは司法書士法,ない可能性があるのは供託法と商業登記法でしょうか)。
憲法と刑法は出題量が少ない(両者で6問程度だと思います)ので,試験合格に向けた勉強としてはあまり時間を割きたくないところです。他方で基本科目でもあるのでしっかりと正解しておきたいもんだいでもあるので,学部の講義でできるだけ基本知識を習得するように心がけましょう。
司法書士試験にはさらに口述式試験もあります。
私の友人は4年生から本格的に勉強を始めて卒業1年目に合格していました。
(4年生までは体育会に所属していました)
勉強期間としては短い方だと思いますが,決して無理ではない期間ですので,目指す人は是非頑張ってみてください。
公認会計士
どんな仕事?
企業の会計関係書類(財務諸表書類〔貸借対照表や損益計算書など〕)の監査が主なお仕事です。
企業の実態というのは外からは見えにくいものです。そこで投資家や金融機関は財務諸表書類をみて,その企業がいまどういう状況にあるのかを判断するのですが,その財務諸表書類がいい加減に作られていると投資家や金融機関は判断に困りますし,ときには経済全体に大きな影響を及ぼすこともあり得ます。
そこで,企業とは独立した公認会計士が財務諸表書類をチェックする仕組みになっています。
このようなお仕事ですので,知り合いの公認会計士さんはやはり年度末から決算発表あたりの時期はとても忙しそうですね。
どんな試験?
短答式試験と論文式試験です。
短答式試験の試験範囲は以下の通りです。
財務会計論,管理会計論,監査論,企業法
論文式試験の試験範囲は以下の通りです。
必須科目:会計学,監査論,企業法,租税法
選択科目:経営学,経済学,民法,統計学から1つ
租税法と民法は法学部の講義で用意されているはずですので,その2科目は学部の講義でしっかりと学び,余った勉強時間を他の科目に振り分けられるようにしたいですね。
企業法という法律はありませんが,この科目で出題される範囲は主に会社法で,それに商法と金融商品取引法の一部が加わったものです。
いずれも法学部の講義がありますね。
とくに会社法は企業法の中心分野なので法学部の講義をしっかり利用しましょう。
なお,短答式試験に合格した場合には,申請により翌年と翌々年の短答式試験の免除を受けることができます。
論文式試験についても,科目合格制度があり,合格基準に達していた科目は申請により翌年と翌々年の論文式試験の免除を受けることができます。
弁理士
どんな仕事?
知的財産に関する専門家です。
イメージしやすいのは特許でしょうか。
ある企業が新しい技術を開発した場合に,特許権を主張するためには,まず申請(出願)してその技術が特許であることのお墨付きが必要です。
その特許の申請(出願)業務などの代理をしてくれるのが弁理士です。
近年は知的財産の重要性の高まりとともに,弁理士の人気も高まってきているようです。
どんな試験?
短答式試験と論文式試験です。
短答式試験の試験範囲は以下の通りです。
特許法,実用新案法,意匠法,商標法,工業所有権に関する条約,著作権法,不正競争防止法
論文式試験の試験範囲は以下の通りです。
必須科目:特許法・実用新案法,意匠法,商標法
選択科目:理工I(機械・応用力学),理工II(数学・物理),理工III(化学),理工IV(生物),理工V(情報),法律(民法〔弁理士の業務に関する法律〕)から1つ
※論文式試験の選択科目については,一定の要件を満たせば免除される場合もある。
短答式試験および論文式試験の必須科目はどれも法学部の知的財産法の講義でカバーされている範囲ですので,その講義をしっかりと理解するようにしましょう。当然のことですが,法学部の講義は弁理士試験のためのものではないので,弁理士試験の範囲をすべてカバーできないことも多いでしょう。独学(あるいは予備校)でもしっかりと対策しましょう。
弁理士試験はさらに口述式試験もあります。
税理士
どんな仕事?
税金に関する専門家です。
企業や個人事業主,高年収者であれば毎年納税手続が必要です。
しかも税金に関する制度は毎年何らかの変更があります。
(租税法の改正頻度を調べてみるとよくわかると思います。法学部の租税法の教科書も改訂サイクルがはやいですよね)
そのような複雑な税金システムを専門家以外が常にチェックすることは難しいです。
また相続など,一生にそう何度もあることではないですが,税金のチェックが不可欠なライフイベントもあります。
そんなときに頼りになるのが税理士です。
どんな試験?
短答式の問題と論文式の問題とで構成されています。
試験範囲は以下の通りです。
会計学に属する科目:簿記論,財務諸表論の2科目
税法に属する科目:消費税法,酒税法, 法人税法,相続税法,所得税法,固定資産税,国税徴収法,住民税,事業税の中から3科目を選択(ただし,所得税法又は法人税法のいずれか1科目は必須)
税理士試験の最大の特徴は科目合格制度です。
一気に5科目合格する必要はなく,毎年1科目ずつ合格でもよいのです。科目合格に期間制限はないので1科目ずつコツコツと積み上げることができれば最終合格できる可能性が高くなります。
各種の税法に関する講義は法学部にあると思いますので,税理士を目指す人は講義を受けるのがよいでしょう。
また,一定の要件で一定の科目が免除されます。
大学院に行って学位(修士論文)を取得できれば一定科目が免除されるので,大きなアドバンテージになりそうです。
社会保険労務士
どんな仕事?
労働や雇用,人事や年金,社会保険の専門家です。
学生のお小遣い稼ぎ程度のアルバイトであれば,給料から控除される額などもほとんどないと思いますが,給与明細にはたくさんの記載欄がありますよね。
賃金から健康保険や年金,雇用保険などが控除されるわけですが,その計算や手続などをミスしてしまうと定年後の人生設計などに大きな影響が生じかねないので,ミスは許されません。
税法と同じく社会保険制度も複雑で,なおかつ改正も多いため,専門家である社会保険労務士の助力が必要です。
近年は企業が各種のハラスメント対策を講じる必要があり,そういった制度設計のアドバイスなどでも活躍しているそうです。
どんな試験?
短答式試験です。
試験範囲は以下の通りです。
労働基準法,労働安全衛生法,労働者災害補償保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。) ,雇用保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。) ,労務管理その他の労働に関する一般常識,社会保険に関する一般常識,健康保険法,厚生年金保険法,国民年金法
ほとんどの科目は法学部の労働法と社会保険法でカバーされていると思いますので,社会保険労務士を目指すならこの2科目は是非受講すべきだと思います。
宅地建物取引士
どんな仕事?
いわゆる宅建(たっけん)ですね。
下宿している人は,部屋を借りるときに重要事項説明をしてくれた人がいたと思いますが,その人が宅地建物取引士です。
以前は「宅地建物取引主任者」という名称でしたが,平成26年(2014年)改正(平成27年〔2015年〕から施行)で現在の「宅地建物取引士」と改められました。
上記の通り,主なお仕事は,不動産の売買契約や賃貸契約等の取引の際に,その物件と契約の内容に関する重要な事項を記した書面を交付し,説明することです。
不動産業界に就職したら,部署によっては資格取得を促されることもあるかもしれないですね。
どんな試験?
宅建試験は短答式試験です。
試験範囲は以下の通りです。
宅建業法,法令上の制限,権利関係,税金その他
※法令上の制限 → 建築基準法や都市計画法など
権利関係 → 民法,借地借家法,建物区分所有法,不動産登記法など
税金その他 → 不動産取得税,固定資産税,印紙税など
上記の4つの範囲で,一番出題数が多いのが宅建業法で,その次が権利関係です。
宅建業法は知識のみで答えることができる問題が多いですが,権利関係は判例の考え方などもしっかりと理解しておく必要があり,点数の差が出やすいのも権利関係です。
でも法学部生にとっては,権利関係の出題範囲はどれも講義がありますし,民法なんて基本科目で単位数も多いですから有利と言えますね。
権利関係をしっかりと法学部の講義でも学んで,勉強時間をほかの科目にうまく振り分けましょう。
行政書士
どんな仕事?
官公庁に提出する書類の作成や提出手続の代行が主なお仕事です。
学生だと経験がある人は多くないかもしれませんが,自動車を購入する際の車庫証明の提出などは行政書士さんがやってくれることが多いですね。
ほかにも飲食店の営業許可の申請手続などもイメージがしやすいでしょうか。
どんな試験?
択一式試験と記述式試験です(論文式ではないです。短文での解答です)
試験範囲は以下の通りです。
憲法,行政法,民法,商法,基礎法学,行政書士の業務に関する一般知識等
行政書士の業務に関する一般知識等以外はどれも法学部の基本科目ですね。
法学部の講義でしっかり学んで,余った時間は一般知識の過去問演習にあてるなどして効率よく合格を目指しましょう。
通関士
どんな仕事?
あまり馴染みのない人が多いでしょうね。
通関士は貿易事務の専門家です。
輸入や輸出には関税の申告・支払や必要書類の提出などが必要です。
通関手続は手続や各品目の税率などかなり複雑な制度ですから,企業のように頻繁に輸出入をする場合には通関業者に代行してもらうことになり,そこで活躍しているのが通関士です。
どんな試験?
短答式(選択式と択一式)と計算式の試験です。
試験範囲は以下の通りです。
通関業法,関税法,関税定率法その他関税に関する法律及び外国為替及び外国貿易法(同法第6章に係る部分に限る),通関書類の作成要領,その他通関手続の実務
通関士試験の試験範囲の法令をずばり扱う法学部の講義は少ないかもしれません。
国際取引法や国際経済法といった科目があれば,関税関係についても触れるはずです。
念のためシラバスをしっかりと確認したうえで,受講してみましょう。
中小企業診断士
どんな仕事?
中小企業の経営コンサルタントです。
経営コンサルタント業務自体は,中小企業診断士の独占業務ではなく資格は不要ですが,経営コンサルタントの唯一の国家資格でもありますから,経営コンサルタントを目指す人は資格取得を視野に入れてもよいと思います。
どんな試験?
一次試験は短答式試験です。
一次試験の試験範囲は以下の通りです。
経済学・経済政策,財務・会計,企業経営理論,運営管理(オペレーション・マネジメント),経営法務,経営情報システム,中小企業経営・中小企業政策
法学部に関係ある科目は経営法務です。
経営法務には「事業開始,会社設立及び倒産等に関する知識」「的財産権に関する知識」「取引関係に関する法務知識」「企業活動に関する法律知識」「資本市場へのアクセスと手続」「その他経営法務に関する事項」です。
なんだか法学部で学ぶ法律専門科目のほとんどをカバーしていますね。
それだけ会社経営には多くの法律が関係してくるということですね。
憲法と刑法以外の講義はすべて関係してきそうです。
(刑法にも背任や横領など企業法務にとって重要なものもあります)
満遍なく受講して,過去問で出題傾向をつかむことが必要ですね。
一次試験には科目合格制度があり,合格基準に達した科目については,申請することにより翌年度と翌々年度は免除を受けることができます。
科目合格制度をうまく使いたいですね。
二次試験は筆記試験と口述試験です。
二次試験の試験範囲は以下の通りです。
組織・人事,マーケティング・流通,生産・技術,財務・会計
二次試験は法学部生が有利な科目がなくなってしまいますね。
不動産鑑定士
どんな仕事?
不動産価値の鑑定評価を行うことが主な業務です。
土地や建物の今現在の価格のみならず,今後の収益性など,広い視野で鑑定評価を行います。
また不動産の証券化,REITなど,不動産の金融商品化にあたっては,不動産鑑定士による鑑定が行われます。
どんな試験?
短答式試験,論文式試験があります。
短答式試験の試験範囲は以下の通りです。
行政法規,鑑定理論
論文式試験の試験範囲は以下の通りです。
民法,会計学,経済学,鑑定理論
行政法規は不動産に関するもので,主なものとして,土地基本法,不動産の鑑定評価に関する法律,地価公示法,国土利用計画法,都市計画法,土地区画整理法,都市再開発法,建築基準法,マンションの建替え等の円滑化に関する法律などです。ほかに不動産登記法,土地収用法,土壌汚染対策法,文化財保護法,農地法や各種の租税法も含まれます。詳し範囲は国土交通省のウェブサイトで確認できます。
民法は,民法そのものと借地借家法,建物の区分所有等に関する法律です。
もし法学部生が不動産鑑定士を目指すなら,民法,行政法,租税法の講義を受けることは必須だと思います。予備校でももちろん学べますが,法律以外の科目,とくに鑑定理論に時間を割くためにも法律系は法学部の講義でしっかりと学びましょう。
なお,短答式試験の合格者は,翌年,翌々年の短答式試験の免除を受けることができます。
二次試験合格後に実務修習があります。
まとめ
法学部で学ぶ内容が試験範囲になっている国家資格,たくさんありますね。
どの資格試験も決して簡単ではありません。難関です。
しかし,資格試験合格を目指すことで,法学部での勉強にも目標をもってのぞむことができるようになると思います。
大学合格後は勉強面の目標がなくいまいちやる気がでないという人は,資格試験を目指してみるのもよいかもしれませんね。