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性同一性障害特例法の性別変更の要件「現に未成年の子がいないこと。」は合憲(最高裁決定)

法学部

神戸家裁尼崎支部に女性への性別変更を申し立てていた男性が,10歳の子がいることを理由に,申立てを却下されていた件で,そのような性同一性障害特例法の要件は憲法13条などに違反しているとして最高裁に抗告していましたが,最高裁は2021年11月30日付で合憲であるとの判断を示しました。

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性別変更の要件

ここにいう性別変更は,戸籍上の性別の変更を指します。

身体を医学的に男性から女性に,女性から男性に変更することは性別適合手術と言うことにします。

(戸籍上の)性別の変更については,「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(性同一性障害特例法)で定められています。

具体的に条文を見てみましょう。4条しかない法律ですので,全文掲載します。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成15年法律第111号)

 (趣旨)
第1条 この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。
 (定義)
第2条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。
 (性別の取扱いの変更の審判)
第3条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
  20歳以上であること。
  現に婚姻をしていないこと。
  現に未成年の子がいないこと。
  生殖せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。
 (性別の取扱いの変更の審判を受けた者に関する法令上の取扱い)
第4条 性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。
 前項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。

2021年12月1日現在施行されている条文

なお,2022年4月1日以降は民法の成年年齢の引き下げに伴い,上記性同一性障害特例法3条1号は「18歳以上であること」と改正されます。

性別変更の要件は下記の通りになります。

  • 2人以上の医師により,性同一性障害であることが診断されていること
  • 20歳以上であること(2022年4月1日以降は18歳以上であること)
  • 現に婚姻をしていないこと
  • 現に未成年の子がいないこと
  • 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること

今回,争われたのは,性同一性障害特例法3条3号に定められている「現に未成年の子がいないこと」という要件です。

子の有無と性別変更

今回争点となった性同一性障害特例法3条3号ですが,2008年(平成20年)に一度改正されて,現在の上記の条文文言になっています(平成20年法律第70号による改正)。

2008年(平成20年)の改正は「現に子がいないこと」という文言でした。

さらにこの改正前の条文についても,下記の通り,最高裁は合憲の判断を下しています。

  • 最高裁平成19年10月19日決定・家庭裁判月報60巻3号36頁
    • 「現に子のある者について性別の取扱いの変更を認めた場合,家族秩序に混乱を生じさせ,子の福祉の観点からも問題を生じかねない等の配慮に基づくものとして,合理性を欠くものとはいえないから,国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず」
  • 最高裁平成19年10月22日決定・家庭裁判月報60巻3号37頁
    • 「現に子のある者について性別の取扱いの変更を認めた場合,家族秩序に混乱を生じさせ,子の福祉の観点からも問題を生じかねない等の配慮に基づくものとして,合理性を欠くものとはいえないから,国会の裁量権の範囲を逸脱するものということはできず」

この2つの最高裁決定の翌年に,上記の法改正がなされ,「子」→「未成年の子」となりました。

今回の最高裁の合憲判断

今回(2021年)の最高裁も,(「子」→「未成年の子」と改正されてからはじめての判断ではありますが)上記の2007年(平成19年)の決定を踏襲して,合憲と判断したようです。

なお,宇賀克也判事は反対意見を書いたようです。(宇賀判事は法学部生や司法試験受験生にとっては,行政法の教科書でおなじみですね)

決定原文はまだ確認できていないのですが,報道によれば,宇賀判事は上記の平成19年決定で合憲の理由とされている「家庭秩序の混乱」や「子の福祉」は「漠然とした観念的な懸念にとどまるとの疑問が拭えない」としたようです。

追記:決定原文が裁判所ウェブサイトにアップされました。宇賀判事の反対意見をまとめてみました。(法廷意見はこれまでの最高裁判断を踏襲するという趣旨のみでした)

  • 2008年(平成20年)の改正(「子」→「未成年の子」)からすると,「男女という性別と父母という属性の不一致が生ずる事態は容認されている」
  • 2008年(平成20年)の改正により「男女という性別と父母という属性の不一致が生ずることによって家族秩序に混乱を生じさせることを防ぐという説明は……脆弱な根拠となった」
  • 未成年の子に心理的な混乱や不安などをもたらすことが懸念されるのは,戸籍の性別変更時ではなく,性別適合手術時である(「外観の変更の段階」)
  • むしろ若い感性を持つ未成年のほうが偏見なく素直にその存在を受け止めるケースがあるという専門家による指摘もある
  • 未成年の子の存在により,親が性別変更できずに苦悩することは,「子も苦痛や罪悪感を覚えるであろうし,親も,未成年の子の存在ゆえに,性別変更ができないことにより,子への複雑な感情を抱き,親子関係に影響を及ぼす可能性も指摘されている」
  • 家庭秩序の混乱や子の福祉という根拠は「漠然とした観念的な懸念にとどまるのではないか」
  • 性別変更を認めても「子の戸籍の父母欄に変更はなく,子にとって父が父,母が母であることは変わらず,法律上の親子関係は変化しない」

宇賀判事は夫婦別姓訴訟でも反対意見を書いていましたね。積極的に自らの意見を明らかにしている印象です。