【読書記録】小野寺史宜『ひと』

読書記録
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2019年の本屋大賞2位の作品です。

あらすじ

大学進学をきっかけに鳥取から東京に出てきた二十歳の青年・聖輔が,ゆっくりと少しずつながらも人と人とのつながりを拡げながら,生きていく力をつけていく様子を描いた作品です。3年という短い期間に両親を亡くし,その後大学を辞めたところから物語が始まります。

感想

この作品では,大きな事件も起きないですし,極悪人も出てきません。小悪人くらいは出てきますが,それも「悪人」とまで感じるかどうかは読み手次第な印象です。

印象に残った場面をいくつか。

  • 「ありがとうございます」「ありがとうございました」が頻繁に出てくる
    • 場面転換の際にこの言葉が効果的に使われます。いろんな感情の「ありがとうございます」がでてきますが,人と人との関係において,この言葉の重要性を再認識させられたような気がしました。
  • 「あいだに人とか建物とかが入ると,距離感が狂うもんなのかな」
    • 作中のセリフですが,印象に残りました。鳥取と東京とでは人や町の距離感が異なる,という趣旨でしたが,たしかに地方の10km先のお店は近い部類に入るでしょうし,東京は人があふれていますがつながりは希薄な感じがします。いろいろと広がりを持つセリフに感じました。
  • 登場人物のキャラ付けは薄味だが,リアル感がある(気がする)
    • 聖輔がバイト中に,大学時代の友人に休憩所代わりにアパートを貸すのですが,その友人が女性を連れ込み,その場に聖輔が出くわすシーンがあります。そのシーンでも,聖輔は大げさに怒ったり,感情をあらわにしたりすることはありません。(そのとき聖輔が体調不良であったことをさっぴいたとしても)まあ,20歳くらいの男同士の友人関係ってこんな感じだよな,と妙に納得感がありました。その後,しばらくしてその友人が謝りにきますが,聖輔はまったく気にしておらず,むしろその友人と今後もずっと友人でいられる気がすると感じています。

最後に,法学部生ならほぼ全員が「そうなんだよ!」と言いたくなるセリフがあったので,紹介しておきます。

「ねぇ,知ってる? 確信犯て,ほんとは,本人が悪いことじゃないと確信して犯罪をすること,なんだって」